第47話 奴隷、属性を選ぶ

「最強だなんて、自惚れが過ぎるわよ」


「サイ一族の歴史において、最強まで上り詰めた俺を甘く見るなよ。それに、セレティアを守るために、もっと強くなってやろうとしてるんだ。褒めてくれてもいいんだぞ」


「そ、それならやってみせなさいよ。魔法でわたしより上はないでしょうけど」


 守るためというより、口出しするため、という部分が大きいが、それは言わないでいたほうがいいだろう、と俺は対抗心を燃やすセレティアを放置する。


「ではまず最初に、ネイヤさんには基礎中の基礎をやってもらいたいと思います」


 フィーエルはネイヤに両手を合わせるように言うと、そのまま腕を前に突き出させ、腕で輪っかを作らせた。


「腕、胸、を一つの円だと思ってください。そこに血が循環するイメージを重ね、回転する意識を強く持つように。上手くいけば、何かが流れる感触と、熱を感じられるようになるはずです」


「わ、わかった」


 難しい顔のまま目を瞑り、ネイヤは初めての魔力循環に挑戦し始めた。


「そのまま、集中しておいてください」


 大人しく従うネイヤを見届けたフィーエルが、今度は俺へと向き直る。それを、余裕を持った笑顔で見つめてくるセレティア。

 これは、俺が失敗するのを見届けるための笑顔だろう。

 間違っても、俺を応援するための笑顔ではないと思われる。


「では、ウォルスさんには、適性属性を調べるために、属性操作をしてもらいたいと思います。それでは――――」


 これで三人の前で使える属性が固定されるわけだが、セレティアが四属性で俺が一属性では示しがつかない。かと言って、それ以上となると異常性も増す。

 属性が全て被っても、これから使ううえで不便なところも出てくるだろう。そして、何よりセレティア以下だというのが明白になり、口出しするのも出過ぎた真似、ということになりかねない。


 四属性のうち、何かと使える水属性は確保するとして、それ以外は違う属性がいいという結論に至る。


「――――ということで、難しいとは思いますが、指先に意識を集中して、各属性でできた球をイメージしてください」


「こうか?」


 突き出した人差し指の先に、眩しいほどに白く輝く光球、透明で清らかな水でできた水球、そして、空間が丸く歪み、球と呼ぶに相応しいのかわからない重力球が現れる。


「わあ、光属性に水属性、それに無属性ですね、スゴイデスネー」とフィーエルが大げさに、且つ棒読み感丸出しで驚く。


 どうやら、フィーエルにこの手の演技はできないようだ。

 流石に見慣れすぎていて無理があったか、と俺は自分で驚くことにした。


「おー、そんなにスゴイのかー」


 俺も驚いてみせようと思ったが、俺にも無理だったようだ。

 あまりの棒振りに、逆に吹き出しそうになる始末。

 驚くのがこんなに難しいとは……。


「ちょっと、どういうことよ。いきなり三属性同時なんて……」


 セレティアは驚きとショックで、もう負けたような態度になっている。

 やはり本当の驚きは違うな、と言いそうになったが、俺は素知らぬフリをして、手をセレティアへと向けた。


「セレティアは四属性だろ、こんなの大したことじゃない。ただ属性がわかっただけだしな」


「それはそうだけど、無属性なんて凄く珍しい属性もあるし、何より、光属性なんて聖職者に現れることが多いと聞くわよ。どうしてウォルスに現れるのかしら」


「すまないな、俺は見た目以上に心が繊細で清らかなんだ。だから、そういう発言は少し傷つくぞ」


「あんなに人を殺っておいて、どの口が言うのかしら……」


 返す言葉がなかった。

 言われてみれば、容赦なく殺っていた。

 ここは闇属性にしておくべきだったか、と少し考えたが、闇なら闇でボロカスに言われそうでもある。


「セレティアさま、聖職者に光属性が扱える者が多いのは、ただの後付けでしかありません。光属性は選ばれた者しか扱えない、特殊な属性なのです。ましてや、人を殺めることとは関係ありません」


「そうなの? それでも珍しい属性が二つもあるのは羨ましいわね」


 遠回しに、俺が清らかな心とは無縁ということになっているが、気づいてなさそうなためスルーしておいた。


「――――それで、次は何をすればいいんだ」


「何を言っているの、次は私の番よ。ずっとウォルスを優先させるわけにはいかないから」


 見ておきなさい、と言わんばかりの気合で鍛錬を始めるセレティア。

 こうなると、フィーエルも歯止めが効かないのがよくわかる。


 セレティアは両手を広げ、目を閉じると、三等級魔法を同時に四属性、安定した状態で常時発動する。それも、俺に見せつけるように。

 初めてセレティアの魔法を見た時とは、別人と言ってもいいくらいの安定感である。

 それぞれの魔法は乱れ一つ見せず、、セレティアの頭上で小鳥の形を取って円を描いている。

 見る者によっては、凄く間抜けな光景だが、これは三等級魔法の手本、といってもいいくらいの出来栄えだ。


「俺も、そのくらいはできるようにならないとな」


「……魔法を舐めてるでしょ。簡単そうに見えても、凄く難しいんだから」


 閉じられていたはずのセレティアの目が薄っすらと開き、俺をジロリと睨んだ。

 確かに、四属性の、三等級魔法を同時に安定して行使するのは、それなりに技術が必要だ。

 その辺にいる魔法師なら、拍手喝采ものなのは間違いないだろう。


 だが俺は、そのセレティアに忠告できる立場にならなければいけない。

 ということは、このセレティアの成長速度と比較しても見劣りしない程度、それでいて、セレティアの自尊心を傷つけない程度の才能を見せつける必要がある。


「フィーエル、俺にも三等級魔法を教えてくれ」


「いきなり三等級ですか!?」


「いきなりできるとは思ってはいない。四等級は覚えても使う機会が少ないだろうし、三等級の応用でどうにかなるだろう」


「まあそうですけど……じゃあ、まずは見ていてください」


 フィーエルはさっきまで座っていた切り株に左手を向け、初心者に教えるようにゆっくりと魔力を練ってゆく。

 手のひらに収束してゆく魔力は水属性、行使しようとしているのは貫通魔法だ。


「セレティア、魔力が乱れているぞ」


「わかってるわよ」


 セレティアはフィーエルの魔法に気圧され、既に頭上の小鳥は原型を留めていない。

 ゆっくりやっている分、フィーエルの三等級魔法は実に濃密で、込められた魔力は二等級魔法に近い。


「これが三等級の、水属性貫通魔法です」


 フィーエルが放った水弾は、通常の魔法より速く地面を抉りながら進み、切り株に拳大こぶしだいほどの穴を空けた。

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