【web完全版】奴隷転生 ~その奴隷、最強の元王子につき~
カラユミ
第1話 奴隷、一族最強になる
今日も日課となっていた、三〇〇本の大木を素手で圧し折る作業が終わる。
大人の胴回りの数倍はあろうかという大木も、俺の力なら特に問題なく圧し折れる。
五歳の時から始めて、早十二年。
この鍛錬も今では、早朝から開始すると、陽が昇りきらないうちに終わってしまう。
休みなくやり続けた結果、周辺の山からは木がなくなり、昔に比べ随分見通しがよくなった。
軽く火照った体の汗を拭うと、はだけた服から、唯一、俺の体にある傷が目に入る。
――――
左胸に刻まれているその傷は、奴隷の中でも、血で命の契約を結ばされた、呪いとも呼べる最も性質が悪いものだ。これは一つ一つ解呪方法が違い、俺でもそれがわからないと解くことはできない。さらに、契約主が死ぬと、その三日後に自分も死ぬというおまけつきだ。
アルス・ディットランド。
この名を知らぬ者は、この世にいない。
四大竜の一つ、暴食竜ヘルアーティオを殺った魔法師の名であり、カーリッツ王国の若き王子の名だ。そして俺の名でもある。だが、今はアルス・ディットランドではない。
アルス・ディットランドは死んだ。
その言葉のとおり、俺の体は、自分のあまりに強力な魔法力に耐えられず、三十歳という若さで死んでしまったのだ。
だが当時、俺は死者蘇生という、この世にない魔法を研究していた。そして偶然にも、転生魔法を生み出すことができた。
研究の末わかったこと、それは、魂にはいくつか制約がある、ということだった。
その中でも、記憶に関することには抜け道があった。魂と記憶とは必ずしも同質のものではない、というものだ。
俺は魂と記憶を切り離し、それを躊躇なく使った。
そして、俺はウォルス・サイとして転生した。
希望していた最高の体を手に入れたのはいいが、まさか王子から奴隷一族の下に転生するとは思ってもみなかった。
正直なところ、この転生は成功したが失敗の部分が大きい。
一つは自由が制限される奴隷として生まれたこと。
もう一つは、この体も鍛えないと、俺の全力の魔法には耐えられなかったことだ。
それはそろそろ終わりを迎え、理想の体に仕上がった。
「ウォルスよ、よく今日まで休まず鍛錬を積んだな」とサイ一族の長である父が、威厳のある声で話かけてきた。
俺は「この程度、もう準備運動にもなりませんよ」と笑いながら答えた。
「このレベルを笑ってできるのは、一族の中でもお前くらいのものだぞ」と父は頬を若干引きつらせながら言う。
「それで、父上がこんな所まで何の用なんです?」
俺が鍛錬を積んでいる場所に、父自らやってきたのはここ数年では初めてのことだ。普段と同じ態度でも、特別な何かがあってのことだろう、と俺は判断した。
「いつもながら鋭いな。今日はお前を、護衛奴隷として送り出す日が決まったのだ」
父は続けて、護衛奴隷が何たるかを説明しようとしたが、俺はそれを手で遮った。
貴族以上の地位にいるものは、クラウン制度というものを行うのが通例となっている。領地を守るため、自ら冒険者となり、戦場へ赴いて武功を上げ、功績を内外に示さなくてはいけない。
その功績によって、侵略する者が減り、官吏や軍への希望者が増える。俺が暴食竜ヘルアーティオを殺ったのもそのためだ。
それゆえ、旅をするのに腕が立つ者、信頼がおける者を同行させる必要がある。そこで絶対服従の護衛奴隷を使う者もいるというわけだ。
一族丸ごと血契呪まで施して飼い慣らすからには、それなりの身分の者だとは思っていたが……。
「このサイ一族を囲っているのは、どこの国の王族です?」
俺は当然のことのように口にした。
サイ一族は奴隷でありながら、ひたすら鍛錬を積み、強靭な肉体と戦闘力を備える一族だ。俺がアルス・ディットランドだった頃も、そういう戦闘特化している一族がいる、ということくらいは聞いたことがあった。
「もう教えてもよい頃合いか」と父は白髪が混じり始めた顎髭を撫でながら、「ユーレシア王国のロンドブロ家だ。お前はセレティア王女殿下付きの護衛奴隷として働くことになる」
ユーレシア王国、俺が王子だった頃には聞いたこともない国で、頭が少し混乱した。
俺が知らない間に、世界情勢が変わってしまったのかもしれない。
奴隷の身分で周りには何もないため、全くそういうことを知る機会に恵まれなかった。
生まれてから魔法を使わず、体だけを鍛えてきたのは間違いだったのかもしれない。
「その国は大国なのですか?」と俺は本気で尋ねた。
「小さいな。少し離れた所にカーリッツ王国という大国ならあるが、それが気になるのか?」
「いえ、小国のほうが面白そうなので、よかったです」
カーリッツ王国があるということは、少なくとも、そこまで世界は変わってはいないはずだ。
もしかすると、俺が転生した時間軸がズレているのかもしれない。今から魔法で調べてもいいが、そのうちわかるだろうと、ユーレシア王国に向かうための準備を優先することにした。
◆ ◇ ◆
父の報告から三日後、ユーレシア王国に向け出発した俺は、二〇人ほどの旅の一団と知り合う機会があった。
あまり裕福ではない旅芸人の一団だったが、俺の格好は、その旅芸人から見ても酷かったらしく、埋めることのできない距離があるのが一瞬で理解できた。
服と表現するにはあまりに粗末な、布を縄で縛っただけの格好は、最初こそ酷いと思ったが、十七年も着ていると慣れてしまい、感覚がおかしくなっていたようだ。
その旅芸人たちにそれとなく現在のカーリッツ王国の話題を振ってみた。そこでわかったことは、俺が死んだ年から十七年が経過していたこと、そして、今もアルス・ディットランドが健在であるということだった。
転生で全く時間軸がズレていないことがわかったわけだが、俺が生きていることになっている、という衝撃の事実に立ちくらみがした。
俺の名があるだけで、大国であるカーリッツ王国を統治しやすい、というのがあったのだろう。だが、流石に死んだことを隠してまでやることなのか、と現在の王である、弟イルスのことが心配になった。俺が知る限り、イルスはそこまで愚かな奴ではなかったはずなのだ。
そして俺が鍛錬をしていた場所は、冒険者ギルドを支える教会、クロリナ教の直轄領である、クロリアナ国だったということが判明した。
国とはいっても、世界の中心にある、教皇が住んでいる永世中立地域だ。
こんなことなら、王女殿下がこちらに来れば済む話なんだが、と俺は思わずにはいられなかった。
俺を護衛奴隷として、王女殿下自らがクラウン制度に
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