第17話 トロール
……間に合ったか!
ギンを全力で走らせ、どうにかトロールの前に立ちはだかる。
誰が襲われているのかはすぐにわかった。
それは俺の大事な戦友達と、守るべき姫様だった。
「ブァァァァ!」
「調子にのるなよデカブツが——もう二度と、俺の目の前で大切な人を死なせやしない」
「先輩!」
「ア、アイク殿? ……お兄さん?」
一瞬だけ振り返ると、そこには知己である二人がいた。
どちらも、俺にとってかけがえのない人達だ。
当然、近くにいる元部下達も。
ただ……セレナ様の顔が固まっているのが気になる。
「何故、二人がここにいるのかはわからない。とにかく……ナイル、セレナ様を連れて下がってろ。こいつは、俺が叩き潰す」
「はっ! この命に代えても!」
「………」
「姫様! ぼけっとしてないで下がりますよ!」
「ふぇ!? え、ええ!」
三人が馬車に下がるのを確認し、トロールと向き合う。
ギンが威嚇しているので、相手も警戒している。
本能で生きる妖魔とはいえ、中級ともなればギンの強さはわかるのだろう。
「ギン、こいつは俺がやる。お前はガルフを乗せて、周りの雑魚を片付けてくれ」
「ウォン!(うむっ!)」
「任せるのじゃ!」
これで良し、あの二人なら雑魚共に遅れを取るわけがない。
あとは、俺がこいつを始末するだけだ。
「ブルァァァ!」
「俺なら勝てると踏んだか? ……舐められたものだな」
「ブルァ!」
「ふんっ!」
振り下ろされた棍棒を両腕を交差して受け止める!
その衝撃は中々で、俺の足が地面に埋まった。
「ブルァ!?」
「何を受け止められて驚いている? こっちも行くぞ——ゼァ!」
「ゴバァァ!?」
両腕を上げて棍棒を弾き、回し蹴りを食らわす。
少しだけ吹き飛んだが……すぐに起き上がり、けろっとしている。
しかし、その顔は怒りに染まっていた。
脆弱な人間に力で負けたのが気に食わないのかもしれない。
……これならば、挑発すれば容易いか。
「だが、肉弾戦では仕留められないか。どうした? その程度か?」
「ブ……ガァァァァァァァア!」
「所詮は妖魔、安い挑発に乗ったか」
俺が言葉で挑発すると、奴が棍棒を振り上げた状態で駆けてくる。
俺は片手を背中にある大剣に添え……振り下ろしを半歩ずれて躱す!
「そんな大振りを喰らうわけがなかろう!」
「ブカァ!?」
「失せろ——斬馬一刀!」
「ガ………ガ、ガ、ガ……」
隙だらけの身体に跳躍斬りを放ち、大剣により顔面を押し潰す!
トロールはゆっくりと地面に伏せ……ただの肉塊となった。
周りを見ると、どうやら雑魚も片付け終わったようだ。
「これでよしと……さて、どうしたもんか」
「お兄さん!」
「うおっ!? せ、セレナ様!?」
振り返ると、セレナ様が胸に飛び込んできた!
避けるわけにもいかず、そのまま受け止める。
色々と柔らかいものや良い香りがして、俺の脳内を刺激する。
……ええい! 戦いの後で高ぶってるとはいえ、王女様に対してなんてことを!
「えへへ、思い出しました」
「は、はい? そういえば、お兄さんとは? い、いや、ともかく離れましょう!」
「あっ——私としたことがこんな大勢が見てるところで! し、失礼しました!」
そこで、ようやく俺から離れてくれる。
そして、改めて確認するが……目の前にいるのは、間違い無く我が国の第一王女であるセレナ様だった。
今日は鎧ではなく白いワンピースを着ていて、普通の清楚な女の子って装いだ。
「いえ……それより、どうしてここに? ナイルもいるし……どうなっているんだか」
「先輩! お久しぶりです!」
「ああ、と言っても二週間ちょっとしか経ってないが……言いたいことが多すぎて、頭が痛くなってきたな」
すると、見知らぬメイドさんが近づいてくる。
赤い髪に整った容姿、そしてすらっとした体型だが……この佇まいは普通のメイドじゃないな。
おそらく、隠密系の特殊なメイトに違いない。
「アイク様、お話中失礼いたします。私、姫様の傍付きであるサーラと申します。お三方、まずは状況整理が必要かと思います。ひとまず、アトラス領地にまいりませんか?」
「サーラ殿か、よろしく頼む。確かに、こちらも少し混乱している。一度、落ち着いたところで話がしたいところだ」
「こちらこそよろしくお願いいたします。では、死体の方は如何なさいますか?」
「それなら心配いらない。ギン、お前の炎で処理してくれるか?」
「ウォン!(任せるのだ!)」
妖魔は人が食べることはできないし、死体を放っておくと魔素溜まりという毒を発生させる。
なので、必ず燃やして処理する必要がある。
その後、ギンの火炎により処理を済ませた俺達は、街へと向かうのだった。
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