追放された英雄の辺境領主生活~静かに過ごしたいのに周りが放っておいてくれない~
おとら
一章
第1話 英雄
「……ようやく終わったか」
指揮官であるモルグ将軍討ち取り、停戦が決まった。
これで、ひとまず平和が訪れるだろうだろう。
「これで、長きに渡った戦争も終わる」
気がつけば、もう三十五歳……立派なおっさんだ。
「ふぅ……戦争はこりごりだ」
あとは、のんびりと過ごしたいものだ。
すると、天幕の外に人の気配を感じる。
「アイク殿、入っても良いですか?」
「これはセレナ様!? ええ、お入りくださいませ」
「失礼いたします」
目の前には、純白の鎧をまとった美しい女性がいた。
この軍の指揮官でもある、セレナ将軍だ。
抜群のスタイルに銀髪と白い鎧から、白銀の乙女と言われている。
「アイク殿、この度はお疲れ様でした。あなたのおかげで、この戦争は終わりました……国を代表してお礼を言わせてください」
「いえ、セレナ様こそ。貴女がいなければ、この戦争は負けていました」
「そんなことはありません! そ、それより、そんなに他人行儀にしないでください……一緒に戦った、私と貴方の仲ですから。それに、貴方は我が国の英雄なのですよ?」
「そういうわけにはいきませんよ。貴女は、我が国の第一王女なのですから。それに、英雄というなら貴女の方ですし」
この戦争の立役者の一人であり、我が国ミルディン王国の第一王女だ。
水魔法の使い手であり、偉ぶらない姿勢から民や兵士からも絶大な人気を誇る。
そのおかげもあり、現場の士気が高かった。
ゆえに、彼女こそが英雄と言えるだろう。
「むぅ……相変わらず頑固ですね。敬語だって、いらないと言ったのに」
「すみません、性分なもので。というか、俺はしがない男爵家の次男坊ですし」
「ですが、戦闘中は普通に話してくれたではありませんか」
「それは、まあ……その節は失礼いたしました」
どうも俺は、戦闘になると気が高ぶる癖がある。
そんな時は口調が荒くなったり、精神が高揚したりしている。
多分、臆病の裏返しなのだろう……治したいとは思っているのだ。
「 そんなこと言わないでください。貴方には、沢山助けて頂いたのですから」
「俺こそ、貴方の回復魔法には助けられました。俺が運ばれてきた時、傷を治してくれたみたいですし」
水属性は回復魔法も司る。
しかも、魔法は選ばれた者にしか使えない。
彼女はそれを、平民にも分け隔てなく行使してきた。
その魔法に、どれだけの人が救われたかわからない。
「そ、そんなことないです! 私の方が助けられました! 常に前線に立ち、その剣の一振りは戦況を一変させる……その姿に、私がどれだけ励まされたか」
「いえいえ、俺など大したことないですよ」
「そんなことないんですっ!」
そして、二人で顔を見合わせて……笑い合う。
「はは……やめましょう、恥ずかしくなってくるので」
「ふふ、そうですね。では、互いに頑張ったということで良いですか?」
そう言い、俺に握手を求めてくる。
「ええ、それならば」
なので、俺もそれに応える。
……戦場にいるとは思えないほど、柔らかな手をしている。
そんなことを考えていると、足音が聞こえてきた。
そして、許可もなく男が天幕に入ってくる。
「セレナ様!」
「ゲイル、天幕に入る時は許可を得なさい」
「こんなところに……ほら、皆が待ってるからいきましょう。兵士達に、声をかけてくれないと困ります」
「それなら彼も一緒に……」
「セレナ様行ってください、俺のことは良いですから。少し疲れているので休みたいです」
「わかりました……その代わり、あとで話をしましょうね?」
そう言い彼女は去っていき、お付きの騎士だけが残る。
ゲイル-ハロルド……確か、侯爵家の次男だったっけ。
「どうしましたか?」
「英雄だが何だが知らないが、調子にのるなよ? 貴様など、ただの男爵家次男なのだから。今までは、戦場ゆえに我慢していたが……二度と、あの方に近づくな」
「ええ、わかってますよ。大丈夫です、身のほどはわきまえてますから」
「ふん……なら良い。まあ、英雄など邪魔なだけだ」
そう言い、ゲイル殿も出て行く。
少し腹は立つが、相手の言うことも一理ある。
おそらく、俺の存在は邪魔になるだろう。
でも、それは願ったりだ。
出世には興味ないし、俺のせいで折角の平和にヒビを入れるわけには行かない。
何より戦争が終わった今、俺の願いは静かに過ごすことなのだから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます