B5-2 どうか憎しみを抱くなど Part1(ゲーム)

仰向けで横たわる采漢紳シャッハ・ジェン

彼の周りをシンセやウプシロン、ヨー、その他の仲間達が囲んでいた。


「ヨー。

何泣いてるんだ?…

俺みたいになりたいんだろ?

それなら泣くな…

俺はお前みたいにメソメソしないぞ…」


「俺は強いから、泣いたりしないんだぞ」


「そうか。

それは頼もしいな。

…シンセ。

後のことは、お前に任せた…」


「諦めるな!

まだ何か方法が…」


「方法なんてない。

俺のことは俺が一番分かる…。

お前の方が、俺よりみんなをまとめる能力があるかもな…」


采漢紳シャッハ・ジェン…」


「ウプシロン。

お前は正義感が強いからな。

仲間がピンチの時は、みんなのことを守ってやってほしい」


「…」


「こうなったのは水硝クリスタルのせいだ。

奴がお前達に手を出さなければ、こんなことには…。

だが、奴に恨みを抱かせたのは俺だ。

俺は人間を恨み、憎んだ。

その怒りの矛先は、知らず知らずのうちに悪さをするモンスター達に向いていたんだ…。

俺は水硝クリスタルにも過度に攻撃したんだろう。

自分の力を見せつけるように。

それが奴の復讐心を育てる要因になったのかもしれない。

人間は皆が皆、自分のことしか考えられないというわけではなかった。

もっと早くそのことに気づくべきだった。

そうすれば、こんな事態を招かずに済んだかも…。

だからどうか…」


**********


TURN10

(水硝クリスタルのターン)


「俺のターン!

(今あの小僧に攻撃しても、他の奴らが庇えばダメージは与えられない。

ならば、唯一攻撃力が勝っている、あの馬を攻撃してやる!)

攻撃だ!」


水硝クリスタル】攻撃力1900 威力5

     vs

【ウプシロン】攻撃力1500


「う…」


【ウプシロン】累積負傷値:23(18+5)


「どうだ!

まずはそいつから消してやるよ!」


「させない!

【手負いの代償】のカードを発動!

戦闘ダメージを受けたプレイヤーは、累積負傷値の分だけ攻撃力が上がる!」


【手負いの代償】

アイテム:カード

効果:プレイヤーが戦闘ダメージを受けた場合、使用可能。

そのプレイヤーは、自身の累積負傷値×100だけ攻撃力が上がる。


【ウプシロン】累積負傷値:23

【ウプシロン】攻撃力3800(1500+23×100)


采漢紳シャッハ・ジェン】攻撃力4800

【糸詠】攻撃力500

【ウプシロン】攻撃力3800

【シンセ】攻撃力3100

【ヨー】攻撃力3100


「よし!

これで我々のうち、誰が糸詠を庇っても、奴を止めることができる!」


「お前ら!」


TURN11

(ヨーのターン)


「俺のターン!」


【ヨー】攻撃力3100 威力1

     vs

水硝クリスタル】攻撃力1900


「うっ!」


水硝クリスタル】累積負傷値:1(0+1)


「奴にダメージが!」


TURN12

(水硝クリスタルのターン)


「(奴らの攻撃力が勝る以上、攻撃しても意味はない!)」


TURN13

(采漢紳シャッハ・ジェンのターン)


采漢紳シャッハ・ジェン】攻撃力4800 威力3

     vs

水硝クリスタル】攻撃力1900


水硝クリスタル】累積負傷値:4(1+3)


TURN14

(水硝クリスタルのターン)


「俺のターン…

ターン終了だ」


「どうやら我々の勝利で決着はついたようだな」


「…」


TURN15

(糸詠のターン)


「俺のターン」


手札が1枚増える。


「(悔しいけど、俺の攻撃力じゃあいつには届かないな…)

ターン終了」


TURN16

(水硝クリスタルのターン)


「俺はこのターンも何もせず終了だ…」


「あいつ、もう何もしてこないぞ!」


「このまま我々が攻撃し続ければ勝てる!」


安堵する皆と対照的に、采漢紳シャッハ・ジェンは納得できなかった。


「(なぜだ。

もう勝負はついたはずなのに、奴にはどこか余裕が見える…)」


TURN17

(ウプシロンのターン)


「俺のターン…」


【ウプシロン】攻撃力3800 威力6

     vs

水硝クリスタル】攻撃力1900


「(まさか!

奴は俺達に攻撃されるのを待っているのか!)」


水硝クリスタル】累積負傷値:10(4+6)


「俺の手は全て尽きたとでも思ってんのか?

こんなんで終わるほど、俺は軟弱じゃねぇんだよ!」


「!?」


「俺自身のプレイヤー効果!

累積負傷値が10以上になった場合、俺自身を更新する!」


水硝クリスタルから黒いオーラが放たれる。


「なっ! これは…」


「そう!

ユニットを更新できるのは、采漢紳シャッハ・ジェン

お前だけではない!」


「くっ…」


「さらに、新たに得た効果によって、俺への戦闘ダメージが発生した全ての戦闘を参照し、その時の相手の攻撃力と威力、それぞれの合計が俺に加算される!」


「奴にダメージを与えたのは、ヨー、采漢紳シャッハ・ジェン、ウプシロンの三人!」


【ヨー】攻撃力3100 威力1

采漢紳シャッハ・ジェン】攻撃力4800 威力3

【ウプシロン】攻撃力3800 威力6


「したがって、そのステータスの合計がこの俺に加算される!」


「えっと…合計は…」


ヨーは指で数えていたが、シンセが答えた。


「攻撃力は11700…。威力は10だ…」


攻撃力の合計:11700(3100+4800+3800)

威力の合計:10(1+3+6)


「そんなに!」


「度重なる攻撃、感謝するぜ!」


水硝クリスタル】ver2.0 攻撃力13600(1900+11700) 威力15(5+10)


水硝クリスタル

攻撃力1900 威力5 敗北値25 ver2.0

効果:

・???

・累積負傷値が10以上になると更新され、次の効果を発動する。

このプレイヤーがこの階で受けた戦闘ダメージが発生した戦闘における、相手プレイヤーの攻撃力と威力をそれぞれ合計し、その数値分このプレイヤーのそれぞれの数値に加算する。

(力よりも頭で勝負することを好む鬼。

一度決めたら絶対に曲げない)


TURN18

(水硝クリスタルのターン)


「それじゃあ、お待ちかねの俺のターン!

行くぞ!」


水硝クリスタル】攻撃力13600 威力15

     vs

【糸詠】攻撃力500


「これで終わりだ!」


「(この一撃を糸詠が受けたら、俺達は…。

まだ何か…)」


鬼はどんどん迫ってくる。


「(そうだ!)

ヨー!

出番だ!」


「え! 何?…

あ!

俺のプレイヤー効果を発動!」


「何!? このタイミングで…」


「【ヨー】のプレイヤー効果は、味方アイテムを1つ使用不可にすることで、プレイヤー効果を1つ復活させる効果」


「効果の復活だと!?」


【ヨー】

攻撃力100 威力1 敗北値30

効果:味方のアイテム1つを使用不可にすることで、ユニットの効果使用権を1回増加させる。

(まだ幼いモンスター。

泣き虫なところを直さなければならないと思っている)


「ヨー!

その羽を手放せ!」


「この羽ともお別れか…。

ここまでありがとね」


「後は俺に任せろ!」


「うん!

【昆虫の羽】を使用不可にして、【采漢紳シャッハ・ジェン】の効果を復活させる!」


羽はバラバラになってしまった。


采漢紳シャッハ・ジェン

攻撃力1800 威力3 敗北値30

効果: ユニット1つを更新する。

その階の敵を倒すと効果は終了する。

(自らの姿を隠すため、鎧を纏っている格闘戦士。

素早い動きや跳躍で敵の攻撃を回避することが得意)


「俺の効果はもちろん覚えてるよな?

これで選んだユニット1つを更新する」


「それでどいつを強化するんだ?」


「こいつさ」


采漢紳シャッハ・ジェンが取り出したのは【スロット】だった。


「な! まさか!」


「そう。

ユニットにはプレイヤーの他、アイテムも含まれる。

俺は俺の効果で、【スロット】を更新!」


【スロット】は形を変え、矢と的になった。


「これが俺達の切り札。

【ダーツ】!」


【ダーツ】

アイテム:ダイス ver.3.0

効果:矢を3本投げ、刺さった数値に対応した効果を使用する。

(1ターンに1回のみ)


「ver3.0だと!?」


「【ダーツ】は3本の矢を的に投げ、刺さった数値に対応した効果を適用する!

こいつでお前に反撃する!」


采漢紳シャッハ・ジェンが壁にかかった的に向かって矢を放つ。


17に刺さる。


「1本目は17。

17の効果で、このターン相手は、俺達の中で最も攻撃力の高いプレイヤーを攻撃しなければならない!」


「今攻撃力が一番高いのは采漢紳シャッハ・ジェン、お前だ!」


「お前の攻撃は俺が受けてやるよ!」


「くらえ!」


「だがその前に、2本目を放つ!」


3に刺さる。


「3の効果は…味方3人に3ダメージだ…」


「それは俺達が受ける!」


ウプシロン、シンセ、ヨーが前に出る。

3人に雷が落ちた。


「うわっ!」


【ウプシロン】累積負傷値:26(23+3)

【シンセ】累積負傷値:27(24+3)

【ヨー】累積負傷値:23(20+3)


「どうした?

俺を倒すんじゃなかったのか?

このままじゃ俺よりも先に、そいつらが倒れるかもな!」


采漢紳シャッハ・ジェン

私達は大丈夫だ!

そんな奴の言うことは気にするな!」


「みんな…。

3本目!」


刺さったのは12。


「12の効果で、このターン味方は、自身の累積負傷値分の戦闘ダメージを軽減できる!」


水硝クリスタル】攻撃力13600 威力15

     vs

采漢紳シャッハ・ジェン】攻撃力4800 累積負傷値:28


水硝クリスタルが殴りつける。

あまりの勢いに、采漢紳シャッハ・ジェンは飛ばされた。


「俺の累積負傷値は28…。

ダメージを28減らして…俺へのダメージは…ない…」


「ダメージを受けずともこの衝撃!

どうだ! 少しは俺のことが恐ろしくなったか?」


「…」


采漢紳シャッハ・ジェンは何とか立ち上がる。


「(采漢紳シャッハ・ジェンはもう限界だ。

これ以上攻撃を受ければ…)」


「このままお前に倒れられても、面白くも何ともない!

そこでだ!

この俺が、お前の人生のエンディングを演出してやるよ!

アイテム【人々】を使用!」


「【人々】?」


「そういえばあいつ、まだアイテム使ってなかったな…」


「これが俺のとっておきのアイテムだ!

見ろ!」


鬼が指を鳴らすと、皆の前に巨大な檻が現れた。


「あっ!」


そこには捕えられた人やモンスター達がいた。


縒詠よりた!」


「お兄ちゃん!」


糸詠の弟、縒詠や采漢紳シャッハ・ジェンの仲間達もそこにいた。


「このアイテムは、俺の累積負傷値が10以上の時に使用可能。

プレイヤーとしても扱える、特殊ユニットだ!」


【人々】

アイテム:群衆

使用条件:このアイテムは累積負傷値が10以上の場合、使用可能。

効果:このアイテムはプレイヤーとしても扱われる。

攻撃力0 威力0 敗北値5


「人がアイテムだと!?

ふざけるな!?」


「本題はここから。

俺のプレイヤー効果はさっき見せつけてやったが、あれは更新で手に入れたもの。

俺には元々持っていた効果もある。

それを発動する!」


「奴の効果?」


「味方プレイヤーと敵プレイヤーから1人ずつを選び、どちらかに5ダメージを与えるというシンプルな効果さ。

どちらにダメージを与えるかは針趣糸詠!

お前に選ばせてやるよ!」


「俺が?」


水硝クリスタル

攻撃力1900 威力5 敗北値25

効果:

・自分ターンに1度、味方プレイヤーと敵プレイヤーを1人ずつ選び、それとは別の相手プレイヤー1人を指定する。

指定されたプレイヤーは、選ばれた2人のプレイヤーから1人を選択する。

選択されたプレイヤーは5ダメージを受ける。

この効果で選択されたプレイヤーが受けるダメージを0にすることはできない。

・累積負傷値が10以上になると更新され、次の効果を発動する。

このプレイヤーがこの階で受けた戦闘ダメージが発生した戦闘における、相手プレイヤーの攻撃力と威力をそれぞれ合計し、その数値分このプレイヤーのそれぞれの数値に加算する。

(力よりも頭で勝負することを好む鬼。

一度決めたら絶対に曲げない)


「まぁ、普通に考えれば味方と敵、どっちにダメージを与えるかなんて答えは見えてる。

だから俺もこの効果を使うことはなかった。

でも今は別だ。

心強い仲間が増えたからな」


「まさか、お前!」


「そう!

俺が選ぶのは【采漢紳シャッハ・ジェン】!

そして、味方からは【人々こいつら】を選ぶ!」


「何だと!?」


「どこまで卑怯なんだ!」


「【人々】の敗北値はたったの5。

一撃食らえばそれで終わりだ。

一応説明しておいてやるが、ゲームで負けた者が消滅するってルールは、こいつらにも適用されるからな。

ちなみにこの効果によるダメージを何らかの方法で0にすることはできない。

間違いなくどちらかはダメージを受けるってことさ!」


「(糸詠が彼らを選べば、私達の仲間や彼の弟達は助からない…)」


「(でもみんなを助けたら、累積負傷値28の采漢紳シャッハ・ジェンは…)」


糸詠と采漢紳シャッハ・ジェンは黙って互いを見ていた。


「さて、小僧。

どうする?

弟を助けに来たんだろう?

なら、迷うことはないよな?

それとも、ここまで手を借りてきたそいつに情が移ったか?」


「…」


「さぁ、決めてもらおうか!」


「俺の答えはもう出てるよ。

俺は…みんなを助ける。

采漢紳シャッハ・ジェンにダメージを与える方を選ぶ…」


「!?」


「どうだ采漢紳シャッハ・ジェン

人間嫌いのお前が、重い腰を上げてここまで来てやったってのに、用が済んだらこれだ!

これがこいつの本性なんだよ!」


「…」


「ショックで言葉も出ねぇってか?

まぁいい。

恨むならそいつを恨みな!

さよならだ!」


采漢紳シャッハ・ジェンの上に雷が落ちる。


采漢紳シャッハ・ジェン!」


采漢紳シャッハ・ジェン】の累積負傷値:29(28+1)


「うっ!」


糸詠が声を上げて倒れた。


【糸詠】の累積負傷値:27(23+4)


「何!?

どうなってんだ!?

なぜ小僧に!」


「これが…俺のプレイヤー効果…」


「プレイヤー効果だと!?」


「自分以外がダメージを受ける時、そのダメージを代わりに自分が受ける!」


「(あの小僧!

自らが4ダメージを受けることによって、采漢紳シャッハ・ジェンが受けるダメージを1まで減少させたというのか!)」


【糸詠】

攻撃力500 威力1 敗北値30

効果:自身以外がダメージを受ける場合で、そのダメージを受けることでそのプレイヤーが敗北する場合、そのダメージを1ポイント単位で味方に分配できる。

(人間の子ども。

家族思いで心優しい少年)


采漢紳シャッハ・ジェンやみんなは、俺がここにたどり着くまで、何度も何度も守ってくれたんだ!

こんなダメージくらい受けてやるさ!」


「今ので随分とダメージを負ったが、まだ戦えるか?」


「もちろん。

采漢紳シャッハ・ジェンは?」


「俺は奴を倒すまで倒れるつもりはない。

もう少しで奴に勝てる。

最後まで油断するなよ」


「うん!」


「このターンを凌いだだけじゃねぇか!

俺の効果は毎ターン使えるんだよ!

次のターンで再び効果を発動すれば、今度こそ終わりだ!」


「お前。人の心配してる場合かよ」


「何?」


その時、水硝クリスタルを電撃が襲った。


「う!」


水硝クリスタル】累積負傷値:22(10+12)


「何だこれは!?」


「こいつさ!」


采漢紳シャッハ・ジェンが【封書】を取り出す。


「それは…」


「ここに書き込んだことをお前が実行した場合、お前に敗北値の半分のダメージが与えられるように設定した。

トリガーは…」


紙を見せる。


【封書】

アイテム:文書

効果:この階において、以下に記載したルールを適用する。

(ゲーム前に記載する)

・相手が以下の行動をとった場合、敗北値の半分のダメージを与える。

1.味方プレイヤーに味方プレイヤーを攻撃させる、または、ダメージを与えさせる効果を使用した場合。

2. 味方プレイヤーを含む複数のプレイヤーの中から、1人以上を選ばせる効果を使用した場合。


「お前、俺がこいつらを盾にとることを読んでいたのか!」


「ああ。

お前は追い込まれれば、必ず人々を利用して俺達に選択を迫る。

正々堂々と勝負してくるなんて、最初から考えていなかったさ」


「くっ…」


「お前の敗北値は25。

その半分の数値分のダメージ、12ダメージがお前に与えられた」


「だからどうした!

俺の攻撃力は10000を超えている!

効果を封じようと、攻撃で叩き潰してやるよ!」


糸詠が口を開く。


「悪いけど、もうお前の攻撃は受けない」


「!?」


「俺の手札にはまだカードが残されている。

【窮地の采配】発動!

累積負傷値が29以上のプレイヤーがいる場合、このターン受けたダメージ分、攻撃力と威力を上げる」


【窮地の采配】

アイテム:カード

効果:

累積負傷値が29以上の味方プレイヤーがいる場合、使用可能。

そのプレイヤー1人による攻撃を行う。

このターンにダメージを受けている味方プレイヤーがいる場合、その戦闘中のみ、そのダメージ合計分、攻撃力が倍になり、威力が増加する。


「俺達が受けたダメージの合計は14…」


ダメージ合計:14(1+4+3+3+3)


「【采漢紳シャッハ・ジェン】の攻撃力は14倍になり、威力は14上がる!」


采漢紳シャッハ・ジェン】攻撃力67200(4800×14) 威力17(3+14)


「攻撃力67200だと!?」


「そしてこの効果を受けたプレイヤーは、相手ターンであっても攻撃できる!

頼んだよ」


「任せておけ!」


采漢紳シャッハ・ジェン】攻撃力67200(4800×14) 威力17

     vs

水硝クリスタル】攻撃力13600


「ぐわぁ!」


水硝クリスタル】累積負傷値:39(22+17)


攻撃側の勝利。

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