第50話 裏切りの門
その日、一番門は運命的な夜を迎えようとしていた。それを象徴するかのように風が強く吹き、旗印を次々に飛ばしていた。ここは万代家の家臣が中心となって守っていたが、その多くは西藤三太夫の兵だった。二番門が襲われてから、ここもかがり火が随所に焚かれ、警戒は厳重になっていた。
三太夫は家来の主だった者を広間に呼び出した。あまりに急なことだったので、家来たちは取る物も取り敢えず集まった。そこに三太夫が大股で歩いてきて上座にどっかりと座った。
「皆の者に来てもらったのは他でもない。儂の決意を聞いて欲しいからだ。」
その言葉に家来たちはお互いに顔を見合わせ、訝しがっていた。死を決意した戦に今さら何の決意かと・・・。三太夫はひと呼吸おいて話し始めた。
「儂は大恩ある御屋形様のために働いてきた。それはこの江嶽の国のためでもある。この国を平穏にするためだ。しかし御屋形様は亡くなられた。そしてこの国を牛耳っておるのは今や万代宗長様だ。」
家来たちは、三太夫が敵の大将を様付けすることに違和感を覚えて聞いていた。
「この江嶽の国は他国から常に狙われておる。東堂家が倒れたと知ったら攻めてこよう。そうなるとどうなる? この国は戦にまみれ、他国の支配を受けることになる。我らはそれでいいのか?」
三太夫の言葉に熱がこもってきた。その言葉に家来たちは少しずつ飲まれ込もうとしていた。
「我らは攻めてきた他国の者と戦わねばならない。この国を守るために。ではどうしたらいいか? それはここで死ぬことでない。」
三太夫は大きくこぶしを振り下ろした。その音が広間に響き渡った。
「ここを万代の方に明け渡し、新しく宗長様にお仕えしてこの国を守るのだ。我らは懸命に戦った。亡くなった御屋形様への義理は十分果たした。これからのこの国のために儂とともに立ち上がろうではないか!」
家来たちはそこではっきりわかった。三太夫様は寝返るつもりだと・・・。だがもう反対することはできない空気に包まれていた。だが家来たちはまだ裏切りに迷いの気持ちがあった。三太夫はそんな家来たちをひと睨みし、そして最後に言った。
「もし反対の者がおればここで儂を刺し殺せ! それでどうだ!」
その言葉に家来たちの迷いは消えた。彼らは口々に叫んだ。
「私は殿について行きます!」「私も!」「儂も!」
その場にいる家来はすべて三太夫の裏切りにくみすることになった。その瞬間、この梟砦の命運は決まった。
しばらくして三太夫は兵を連れて一番門の前に来た。
「門を開けよ!」
その命令に警備の兵は驚いた。
「外には敵の兵がおります。開いたりしたらこのまま押し寄せてきましょう。」
「それはわかっておる! だから開けるのだ!」
それを聞いて警備の兵たちは三太夫が敵に内通したことを知った。それならばなおのこと開けることはできない。彼ちは三太夫に同調して裏切ることなど思いもよらず、ただ槍を突きつけた。
「西藤様! あなたの命令は聞けませぬ! ここからお立ち退きを!」
「邪魔するなら除くだけよ! やれ!」
三太夫が合図を送ると、彼の家来が警備の兵を囲んで斬り捨てていった。これでもう邪魔はいなくなった。家来たちは一番門を開けた。するとそこには手筈通りに兵助の兵が並んでいた。
「行け!」
その兵たちが一番門から続々と入ってきた。そして三太夫の家来たちが先導して砦の内部へと進んでいった。その先々で戦いが始まり、それが拡大して騒ぎは大きくなっていった。
その光景をようやく駆け付けた重蔵が遠くから目にした。
「はあ、はあ、遅かった・・・」
彼は一気に山を駆け上り、その息が切れていた。もう砦が落ちるのは時間の問題だろう。ならば櫓で頭領様とこれからの方策を立てねば・・・と重蔵はまた走り出した。仲間の死を無駄死ににせぬために・・・。
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