第56話 なぜ手のひらには毛が生えないのか

 驚いたことに、『無気力三振委員会』では、年末に表彰式がある。

 その暁には、賞金のほか、豪華賞品(十人家族でも楽々乗れるワゴン車、常夏の国へのチケット)も進呈される。

 三振の数は勿論のこと、審美点(三振のときの表情)、三振のときに何を考えていたか、などが審査対象となる。

 ちなみに去年の最優秀者は、バッターボックスで「なぜ手のひらには毛が生えないのか」を考えていた男だ。

 考えるまでもない。「そういうもんだから」だ。

 それがわからないなんて、とんだバカ野郎だ。(そんなことばかり考えていて、窮屈に感じないのだろうか?)


 私の家には、『無気力三振委員会』から度々誘いの手紙(光沢のある上質な紙が使われている)と、会報が送られてくる。

 鼻をかむのには堅すぎるし、メモ帳にも使えない。裏までびっしり三振の美しさについて書かれているから、結局丸めて捨てる。

 処分のために、ヤギでも飼おうかと思ったくらいだ。

 名前は、フィリップがいいだろう。もっとも、フィリップの口にはその手紙は合わないかもしれない。

 彼(彼女)だって、もう少しまともな内容が書かれた紙がいいはず。

 結局、『夢の島』行きにするほかないのだ

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