第45話 影に善悪はない

 気付いたらボクサー・ブリーフ一枚で床に眠っていた。

 蛍光灯は消えており、間接照明の淡い光だけが部屋を照らしていた。

 体がべたべたとする。

 今すぐ熱いシャワーを浴びて、ベッドで眠りたかった。だが、体は水を吸ったスポンジだった。起きあがる気すらおきない。

「……」

 待て。

 もしかして、眠らされたんじゃないだろうか?

 私は焦りを感じつつ、思い通り動いてくれない指先で鞄を探り、財布を確認した。

「大丈夫だよ。何もとりゃあしないさ」

 頭の上から、喪服の男の声がした。

 どうやら椅子に座って、酒を飲んでいるようだ。ぼんやりとした輪郭が、男を幻想的に映す。

 こんなチンピラでも、影だけなら神秘的に映るものだ。

 なにせ、影に善悪はない。

「さっきの女は?」

「覚えてないのか? あんたがジャンケンで圧勝したんだ。あいつ剥き卵みたいな肌さらしてさ、あんたとだろ。おれもいるのに、二人でお熱いことじゃないか」

「……覚えていない」

「あー、嘘だよ。本当に酒に弱いんだな。あいつなら、厨房で片付けしてるよ。旦那と一緒に……あー、その『旦那』はあの女の『旦那』だ」

 私はその嘘に、安堵と、少し残念な気持ちを感じていた。

 あの女と『一戦』交えたかったのか?

 わからない。

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