第7話/野手以上、機械未満の捕手たち

 そうだ。

 5441人のランナーの話。

 さて。

 その5441人のランナーのうち、ホームに帰ってきたのは1462人。3979人は塁上で死に絶えたということである。

 それだけの人間をダイヤモンド上で殺したのだ。それも、私一人で。

 私は後ろを守る野手を仲間だとは思っていなかった。野球は確かに9人でやるものだが、それは打つ時だけ。

 守るときは実際、一人なのだ。

 野手はせいぜい、大きめの籠。捕手はサインを出す有能なスーパー・コンピューター。

 私はそこにボールを放る人間。捕手は女房なんかじゃない。

 野手以上、機械コンピュータ未満の存在。


 私は大卒で、プロを二十二年続けた。

 現在、四十四歳。二十二年で199敗。これが私の成績。

 私はローテーションを守り続けたし、チームの方針に不平を言ったことがなかった。

 もちろん、腹の底に文句はあった。

 たとえばロージンバック。

 私としては、もっと粘りが強いものがよかった。だが、若い選手に合わせて刺激が弱いさらりとした肌触りのものに統一されていた。

 若手は皆、肌荒れを気が触れたように恐れた。(若いやつらは、自分の手を我が子のように可愛がった。ボールが滑っては、何にもならないというのに)

 他にもあった。

 ロッカーはいつだって湿った埃と他人の精液の香りがしたし、ポスト・シーズンの頃には、契約更改のプレッシャーから、オーナーのスキン・ヘッドを口に突っ込まれる夢を度々見た。

 不満はあったのだ。

 ただ、言わなかっただけで。

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