第17話017「琴音さん家の巨峰」



 俺は今、『学校が終わるとダンジョンに潜る』という生活ルーティンをこなしていた。ちなみに土日祝の学校が休みの時もほとんど朝から晩までダンジョンに潜っている。


 そんな、熱心に毎日ダンジョンに通っているからだろう。ある時、窓口のいつものお姉さんこと『石川琴音いしかわことね』さんに、


「ソラ君、E級探索者シーカーになるつもりはない?」


 と声をかけられた。


「ソラ君、デビューしてからほとんど毎日ダンジョンに入ってるじゃない? もし結構強くなっているならF級からE級になることを考えるのも良いと思うんだけどどう? ちなみにE級になれば『E級以上』が条件となるダンジョンにも入れるようになるし、そうなればF級よりもお金になる魔物とかお宝もあるからいっぱい稼げるわよ」


 とのこと。


「へ〜いいですね。でも、E級にはどうすればなれるんですか?」

「『昇格対象となる魔物』を倒せば合格よ。だから実力さえ伴っていればすぐにでも昇格できるわよ」

「なるほど」

「昇格対象の魔物を倒して、倒した証明となる『判断部位』を持ってきてくれれば、それで合格となります。ま、基本的には片耳とか肩腕とか⋯⋯とにかく特徴となる魔物の部位を持ってきてもらえればオッケーよ」

「わかりました。近いうちにチャレンジできそうならやってみます」

「良い心掛けね! チャレンジは何度でも受け付けるから頑張って!」

「はい、ありがとうございます」

「あ! あと、パーティー単位でも試験を受けることができるから、もしそっちのほうが受かりやすそうならパーティーとして試験を受けるのもアリよ。ま、パーティー単位での試験だと合格対象の魔物はパーティーメンバー分の魔物を討伐する必要があるから注意してね」

「それは大丈夫です。僕、単独探索者ソロ・シーカーなので」

「⋯⋯あ」


 そう言うと、琴音さんが表情を曇らせる。おそらく俺を悲しませたとでも思っているのだろう。


「い、一応、言っておきますが、俺は好きで『単独探索者ソロ・シーカー』をやっているので⋯⋯と、特に気にしないでください」


 嫌な空気になったので、俺はそう言ってその場をすぐに立ち去ろうとした——その時だった。


「ごめんなさい、ソラ君っ!!!!」


 むぎゅううううううううううううううううっ!!!!


「モッ! モゴォォォォ?!」


 いきなり、琴音さんが自分の胸に僕の顔を押し付けるように抱き締めてきた。


「ごめんなさい! 私、ついうっかりしてソラ君を悲しませるようなことを言ってしまって⋯⋯」

「モ、モゴモゴォォ〜〜〜っ!!!!」


 琴音さんの『たわわなお胸』が俺の顔全体を優しく包み込む。


 なるほど⋯⋯⋯⋯これが『楽園パライソ』か。


「私がこんなこと言うのもアレだけど⋯⋯でも、ソラ君に友達がいないなんて本当に信じられない! だって、こんなにも良い子なのにっ!! てか何なの、その学校の奴ら?! 私が生徒として入学してソラ君のお友達になっちゃおうかしらっ!!」

「モ、モゴォォ⋯⋯! プハッ! め、めちゃくちゃですよ、琴音さんっ!?」


 と、琴音パイパイから顔を浮上させてツッコミを入れつつも、『琴音さんの巨峰』をしっかりと堪能するべく、再度潜水を試みる思春期真っ盛りの俺。⋯⋯⋯⋯が、その時、


 グイイイイイイイイイイイイイ〜〜〜〜〜〜〜ッ!


「ちょ、ちょちょ、ちょっとぉぉー! 琴音さんから離れなさーーーーいっ!!」


 琴音さんの家の巨峰の深淵へと潜水を試みた俺を何者かが強引に浮上させた。


「俺のアドベンチャーを邪魔する奴は誰だぁぁ!」と琴音さんから強引に引き剥がした犯人を見た。


「ん? 胡桃沢?」


 俺の手を掴んで引き剥がした犯人は胡桃沢星蘭だった。その胡桃沢は顔を真っ赤にして、


「こ、ここここ、この⋯⋯⋯⋯⋯⋯ハレンチゲス探索者シーカーがぁぁぁ〜〜〜〜っ!!!!」


 と叫ぶと、一切有無を言わせないような怒涛の説教を始めた。あと、その横にはもう一人、


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜! て、てめえ、なんつーうらやまけしからん・・・・・・・・・ことをぉぉぉぉぉぉ〜〜〜〜〜っ!!!!」

「⋯⋯⋯⋯か、唐沢?」


 唐沢が血の涙を流して、そんなことを叫んでいた。


 まったく、二人は何をそんなに怒っているんだい?


 僕はただ、琴音さん家の巨峰に身を委ねただけじゃないか。


 そんなことで何を興奮しているんだか⋯⋯⋯⋯まったく大人げない奴らだ。


 ちなみに唐沢と胡桃沢は、俺と一緒にギルドに足を運んだのをきっかけに最近よくギルドに顔を出すようになっていた。今日もどうやら来ていたようだな。


 ところで「そもそもなんでここに胡桃沢星蘭がいて俺たちと戯れてんだ?」と疑問に思った人もいるだろう。


 ということで、まずはその話からしていこうと思う。

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