■Orbital Operation(1)
その日、コーシカ商会のオフィスではちょっとした
『――都市間高速鉄道の新車両愛称募集は、六月いっぱいの予定です。では、次のニュースです』
壁の
「この前通ったところだ。……
事件から、数日経過した。NFL-セキュリティから発見の連絡はないし、各務弁護士からも連絡はない。歯がゆいが、待つしかない状況だった。
私の発言がきっかけとなって、何となく皆の視線が画面に向かう。普段は地下の工房に詰めているシゲさんもいる。
アナウンサーは嫌になるほど冷静な声でニュースを流し続ける。画面に、『AIがもたらした奇跡?』のテロップ。
『交通管理局は、昨日深夜、車両交通の乱れがあったことを発表しました。交通管理AIの不具合によるもので、現在は改善し、交通への影響はないとのことです』
「へえ。珍しいな、今どき〈
「〈一里塚〉って何? 羽刈」
「交通管理システムの名前だよ。正確には、システムの一番中心のAIだな」
「レベル6自動運転と同じ程度の歴史があるものだ。確かに、少々意外だね」
ふうん、と頷いてみる。自分の義足で走る方が好きだから、いまいち自動車は好きになれないのだ。
今や、
羽刈の疑問に答えたわけではないだろうが、アナウンサーが続ける。
『原因については調査中とのことです。この不具合による事故はありませんでした。非公式の情報ですが、不具合によって交通に偏りが出た結果、当時救急搬送に当たっていた救急車が想定よりも早く病院へ搬送できたとのことです』
「逆の影響じゃなくて良かったね」
「緊急車両は元々優先だろ? それより早くってことは、随分と道を開けさせたんだな」
『AIが患者の搬送を優先したのではないかという意見もあるようです。調査報告が待たれます。では、次のニュースです……』
「はっ。AIが突然優先順位を入れ替えたら、そりゃ
無責任なことを、と羽刈が毒づく。シゲさんも隣で頷いているから、技術屋さん的にはそういうものなのだろう。
そんな風に、仕事の話や雑談をしながら昼食を食べ終えかけた頃だ。ちょうど、デザートの羊羹に箸を刺した瞬間、羽刈の
「こいつは、……各務弁護士からだ」
「ほんとに!?」
「羽刈くん、全員に回してくれたまえ」
羽刈のリンクスを通して、まばたきひとつの間に全員へメッセージが共有される。
短い、簡潔なメッセージ。荷物を受け取りたい旨と、受け渡しは明日の深夜、自宅兼事務所ではなく
添付された位置情報は、港湾地区の一角をポイントしている。
「ここ……橋だ」
「橋?」
「うん。ちょっと広めの川を跨いでる橋。夜景は綺麗だけど……なんでこんなところ?」
藍さんが食後の
「何もない橋の上なら、妙な輩が近付いてくればすぐわかるでしょ」
「そっか、警戒のために?」
「多分ね」
社長も頷く。
手ずから淹れたお茶を皆に振る舞いながら、珍しく、笑顔ではない思案顔だ。
「おそらく、各務弁護士も状況は把握しているのだろう。警戒が必要だと理解しているなら、こちらとしても安心できる」
「じゃあ」
「うむ。羽刈くん、各務弁護士に了解を返してくれたまえ」
「うぃっす」
「ティコくん、シゲさん。また襲撃される可能性は十分にある。念入りに調整を。藍くんは周辺情報の把握を、精細に頼むよ」
「はいはい。ティコ、メンテ終わったら下見行ってきな」
「了解ですっ!」
「よろしい。ただし、各自、食休みはしっかりと取ること」
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