10 嘘や

「生きとるかあ? とり! メカマミヤコのアホンダラア!」


 全身が青い金属の、タレ目の女の子が、飛び込むような勢いで部屋へと入ってきた。

 左腕が肩からなくなっており、切断面や、胸、腰、各関節はショートしてバチバチと火花を散らしている。

 青いめかまじょ、みやもとなえだ。


 彼女は激痛に顔を歪めながら、まず目に入った部屋の奥にある睡眠カプセルを見る。

 次に、壁にもたれている赤い金属の少女、美夜子の姿を発見する。

 さらには、美夜子の前で仰向けに倒れている白銀の女性型機体へと視線を落とす。


 とてつもない強さだったはずの白銀の機体であるが、胸に大穴が空いており、ぴくりと震えることもなく静かに横たわっている。


「た、倒せたんか? なあ、小取」


 あらためて美夜子の方を見た瞬間、早苗の目が驚きと不安とに見開かれていた。

 壁にもたれたまま、ぴくりとも動かないのである。


「小取……小取! こら返事せんかい! 早苗様が話し掛けとんやで!」


 青い金属の足が、確かめるようにゆっくりと床を踏む。壁にもたれた赤いめかまじょへと、近寄っていく。


「なあ、頼むわ……なんか、いって……」


 早苗は、受けた損傷のためまともに動かない青い機体からだを懸命に進ませて、ぶるぶる震える腕を美夜子へと伸ばした。

 震える手が、指が、美夜子の頬へと触れようとするが……触れることは出来なかった。

 美夜子の顔がぐらり傾いて、早苗の手を避けたのである。


 早苗の指先をすり抜けるように、赤いヘッドギアに覆われた栗毛髪の少女の頭部が胴体から離れ、床に落ちてごろりと転がった。


 時間が止まっていた。

 目を見開いたまま。

 口を半開きにしたまま。

 どれだけ過ぎた頃だろうか。


「嘘や……」


 掠れ震える、吐息に似た声が漏れたのは。


 ずるり。

 壁にもたれている首のない、赤い金属の身体が、崩れて真横へと倒れた。


「あ、ああ……」


 早苗の口から漏れる掠れた声。

 次の瞬間、彼女が放ったのは絶叫だった。

 これまで見せたことのない、心の底からの震える絶叫だった。

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