05 栗色髪の少女

 さいたま新都心のおおみや地区。

 夜の摩天楼を構成するビルの一つ、その前で二台の浮遊重機ゼログラが破壊の限りを尽くしている。

 警察機動隊員に囲まれた凶悪犯が、逃走経路を確保するためにパトカーなどを片っ端から潰しているのである。


 法改正が遅いため警察はゼログラ犯罪にまったく対応が出来ていないといわれているが、まさに今回も同じパターンを演じてしまっていた。


 それでも時代が時代であり、科学力や物量の前には、最終的に犯人が逃げ切れる確証もなく。目の前にちらつく絶対有利と客観的全体的な状況不利とのせめぎ合いに、凶悪犯たちはよりハイテンションになっていく側面もあるのだろう。

 傍目からすれば、凶悪犯がヒャホーと叫びながら楽しそうにパトカーを潰しているというだけの構図であるが。


「やめろおお!」


 そんな傍目一方的な展開である破壊と炎の中から、場違いな甲高く透き通るような声が聞こえて、摩天楼を背景に浮遊している兄貴分と弟分は無精髭にまみれた凶悪そうな顔を不審げに見合わせた。


「女のコに酷いことするなあ!」


 夜のビル群に、甲高い怒鳴り声がまた響いた。


「なんだあ? ふざけたこと抜かしやがって」

「誰だ! どこにいやがる!」


 二人は顔を怒りに歪ませながら、空中からキョロキョロ周囲を見回している。

 あまりに顔を出すと銃撃されるかも知れないので、威勢のわりにそおっとではあるが。


「あたしはここだ!」


 また、甲高い声がざわつきを貫き響く。


 そして、ついに凶悪犯たちは見たのである。

 炎上している警察車両の、その炎と炎の間から、すっと人影があらわれたのを。


 少女。

 そう、それは少女であった。

 十五か六、というくらいの年齢だろうか。

 ふんわりした栗色の髪が肩までかかっており、その栗色に包まれている顔は柔らかな可愛らしさの中にもしっかりとした強さを感じさせる。

 えんじ色のブレザーに、タータンチェックのプリーツスカート。中学か高校の、女子制服だ。


 大声を張り上げていたのは、この女子生徒であった。

 彼女は夜の摩天楼の麓、炎を背景に毅然とした顔で、ゼログラで高く浮かぶ凶悪犯たちを睨みつけている。


 凶悪犯たちは、またお互いの顔を見合わせた。


 最前線に立つ唯一の報道陣、さいきようテレビのレポーターもとはらえつも突然のことに実況を忘れてぽかんとしてしまっている。

 気を取り直したように顔をぷるぷる振ると、握りしめた巨大マイクを口元に近付けて、叫んた。


「少女です! 制服姿の小柄な少女が突然颯爽あらわれて、凶悪犯の前に立ち塞がりました! あっ……ああ、こ、この少女は、ひょっとして、まさか……」


 まさかひょっとしてなんなのか。

 勿体ぶりつつ次話に続くのである。

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