第44話 そして彼らは対峙する
そしてガーデンパーティー当日。
当たり前のことですが、私もレオンも祝われる側でありながらもホストとして忙しく挨拶をしながらお客様をお迎えしておりました。
親しい友人たちを招き、その彼女たちにも協力してもらった今件――上手くやれればよいのですが。
「殿下、ようこそおいでくださいました」
「……招待、感謝しよう。ロレッタ嬢、それとシャゼット卿、婚約おめでとう」
「ありがとうございます」
実は、お父様は先行投資だと仰ってレオンの没落した実家……シャゼット子爵家を復興させたのです。
正確には売りに出されていた爵位を公爵家が買い上げて、それを身内になるからという理由でレオンに与えたというものなのですけれど。
とはいえ、領地もなく一度没落した貴族、結局は周囲からすれば
現在は陛下から賜った銀山の運営をレオンに任せることで、お父様は『爵位分の働きをしろ』ということにしたようです。
まったく、素直ではありませんね!
それはともかくとして、殿下から婚約祝いの言葉を述べていただけるとは思っていませんでした。
さすがに私と婚約を結び直したいというようなことを今更言ってくるとはこれっぽっちも考えてはおりませんが、嫌味の一つや二つは覚悟しておりましたのに。
(周りの目があるからかしら。それとも、思うところあったのかしら?)
まあ、いずれにせよ突拍子もないことはする様子もないのでそこは一安心でしょうか。 万が一を考えて、口を塞ぐ準備もしていたのですけれど。
危険なものではございませんよ? 勢いを削いでただ場を移動していただくだけです。
以外とこちらが落ち着いて行動すれば、できないこともありませんから。
何も準備していなければ、心構えをしていなければ驚いて後手に回ることもありますが……今回に関しては何が起きても対応できるようにお父様にも助言いただいて準備をいたしました。
「殿下は卒業後、伯爵位を賜り南方寄りにある王家の所領を領地としていただくとか」
「ああ、それで――」
「あちらの土地は大変肥沃なところで小麦の生産も豊富、国家のためにも大変重要な位置ですものね。殿下であればきっと良いようにしてくださるという陛下の期待でしょうか」
ややわざとらしくそう殿下の言葉を遮るようにして私が朗らかに言えば、殿下はグッと押し黙りました。
こういう場でははったりも必要で、淑女としては大きな声を出すというのはあまり褒められたことではありませんが……この場で私は次期公爵として王族という地位を持つ相手に臨むのです。
殿下は伯爵というその地位が不満。
だけれど私が見たところ、与えられるのは王家が所有する土地の中でも、割と有数な小麦の産地。
あまり気候の大きな変動もなく、安定した税を納められる土地でもあったことを考えると……陛下は、陛下なりに可愛い我が子のことを考えて罰と、そしてこれからの未来をお与えになったのでしょう。
妻たちとは政略結婚でも、陛下は陛下なりに我が子を愛しておられたのです。
ただ、国王として国と民を守る立場でいえば、同じ王族である我が子のことを愛しく思いながらも同時に駒として考えなければならないこともあるのでしょう。
キール殿下のことも、他国に婿入りさせねばならないことを考えると、心配な気持ちはあるはずです。
ただ、親の心子知らずとも言いますし、私もつい最近までお父様に大切にされているとは理解していてもその心遣いまではわかっていませんでした。
きっと殿下も同じだと思うのです。
私たちは与えられていた愛情や環境を、当たり前のものとして受け取っていました。
勿論、そこには親なのだから当然だとか、裕福な家庭なのだからというものもあるのでしょう。
でもそこは親も一人の人間なのだということを理解して、無償の愛を当然だと思ってはいけないのだなあとようやく私は理解したのです。
むしろこれからお父様に対して私は……頑張る姿で恩返しとし、立派な公爵となってお父様の心配を減らしたいと願うばかりです。
誇れる娘であれるように。
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