第38話 父の思い

 思わずキョトンとしてしまいました。

 ああ、ここにレオンがいなくて良かった!


 彼は彼で今日は騎士として訓練に励んでいるので……。


 元々ワーデンシュタイン公爵家の騎士なのだから、我が家の私設騎士団とは当然顔見知りなのでいつも通り・・・・・で変わらない生活らしいのだけれど。

 まあ立場としては彼がいずれは公爵の配偶者となって、騎士団たちのトップに立つ……ということでそちらについても現在の隊長に指導を受けているのです。


 話は逸れてしまいましたが……とにかく、今ここにはお父様と私しかいません。

 真意を聞くタイミングはこれから幾度もあるでしょうが、レオンのいないタイミングは……そう、今しかありません。


「私のため、ですか?」


「そうだ。陛下は国のために。わたしは娘のために。……まあそこにワーデンシュタイン公爵家にとっての利益が欠片でも存在しないのかと問われれば、打算はある。だがそれ以上にわたしにとってはお前も、レオンも、大切な家族であることに違いない」


 ワーデンシュタイン公爵という立場では、娘の婚姻は家にとって最善のものを選択すべきです。

 であれば、私の気持ちがレオンにあろうとも……本来であれば許されるはずもありません。


 アベリアン殿下と婚約することによって、どのような・・・・・形であれ、適齢期の婚約期間を失った私は瑕疵ある令嬢として、名誉こそは落ちずとも新たな婚約者を迎えるのにハードルを下げなければならなかったことでしょう。


 でも、だからこそ・・・・・そこにレオンを持ってくることができると、そうお父様はお考えになったのです。


「……わたしにとっても、レオンは大切な妻の友人の息子で、そして幼い頃からその成長を見守ってきた青年だ。お前にも、彼にも、幸せになってもらいたいと思う程度には人間としての心は失っておらんよ」


 ただイザークに関しては、お父様としても予想外だったらしい。


 元々は分家の分家、カデーレ子爵家に優秀な子がいるが、教育もツテもないと相談を受けて今回の件で養子を取るならばその子にしようと決めたのだそうです。

 十二分に教育を施し、私の婚約が白紙に戻った際もその教育成果次第で今後はワーデンシュタイン家で働かせることも考えていたというのです。

 それこそ、当主の補佐や代官への道をお父様はお考えだったのでしょう。


 ですが、残念なことにイザークは、夢を見てしまいました。

 私がいなければ、私に子が生まれても。

 その地位に、座り続けることができるのではないか……と。


「だが、目を覚ましてくれたなら良かった。当初ほどではないが、分家筋に対する責任は果たすつもりだ」


「……はい」


 ちなみに、レオンを他家の養子に出して地位と身分を手にさせてから私に婿入りさせるという計画も当初はあったようなのです。

 けれど、殿下が想定以上に私に対して塩対応だったことからレオンという支えをなくしてはまずいと判断した結果が今なのだそうです。


 館の人間に関しては、私とレオンの関係についてむしろ声を上げて喜んでくれました。

 なんとも気恥ずかしい話ですが、こんなにも私は守られていたのですね。


 私も、レオンも。

 イザークも。


「お父様」


「難解な方法でしか見守れない親ですまないが、お前も慣れておくれ」


「……かしこまりました」


 私もいつか、こんなふうに誰かの幸せを守れるようにならなくては。

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