第25話 ただ目に見える罰を与えればいいというものではない
王妃様がそこまで仰る理由は、すぐにわかりました。
おそらくは私も含め皆が理解していることでしょう。
第一王子のアベリアン殿下、そして第二王子のキール殿下。
この二人は王妃様の御子です。
ですが第三王子であるマルス様は、第二妃様の御子……。
それも第二妃様は、王妃様と敵対関係にある派閥出身なのです。
そしてマルス様は現在八歳になられたばかり。
(確か……南側の国にある大公家に、第三王子と同じ年齢層のお嬢様がいたはずだわ)
アベリアン殿下は廃嫡。
キール殿下は隣国へ婿入り。
そしてマルス殿下が南側の隣国から花嫁を迎えれば、国としては願ったり叶ったり。
長子優遇であるがゆえにアベリアン殿下が尊ばれたけれど、こういう事態ならば致し方ないと思いつつも王家としても嬉しい形に収まるのでは?
当代の陛下は国内の有力貴族からお妃を迎えることで派閥関係を保たれたわけだけれど、次の世代ではできるかぎり国外と繋がりを持ちたかったわけだし。
マルス殿下に国外から婚約者をという声は前々からあったけれど、王位を継ぐ予定もないため難しいって話になっていたのよね……。
第二王子が婿に出るのに、第三王子まで婿に出しては有事の際に困るということも大きかったのだけれど。
そういう意味で東の隣国に嫁ぐコリーナ様に期待が寄せられているのよね。
(……そのあたりの意味でも、陛下はマルス殿下を王太子にしたい気がするわ)
王妃様からすれば、国内貴族の派閥問題で頭が痛いでしょうけれども。
ワーデンシュタイン公爵家が味方だと思えばこそ、政策に関して発言する際も強気でいられたのだと思うけれど……それを失うと思うとね。
(アベリアン殿下は陛下や王妃様から私との婚約の意味を教わっていなかったのかしら?)
お父様は幼い私にもわかるよう話してくださったし、その後も何度となく話して聞かせてくださったものだけれど。
だからきっと陛下もそうだろうと私は思っていたし、アベリアン殿下もそれらのことを踏まえてなおアトキンス嬢と結ばれたいのだとばかり……。
「ともかく、アベリアンは王太子から外された。マルスが立太子の儀を行うのはもう少し後になるだろうが、確定だ。よって、メルカド侯爵令息ウーゴとモレノ伯爵令息エルマンは王太子の側近候補から外れる」
「承知いたしました」
「愚息の振るまい、誠に申し訳ございませんでした」
「新たなる王太子の側近についての選定だが、メルカド侯爵家とモレノ伯爵家、及びその親族家からは選ばれることはない。そのことも覚えておくように」
「かしこまりました」
大人たちが陛下のお言葉に頭を下げる中、ウーゴ様とエルマン様はただうなだれるばかりでした。
今更『どうして』と思っておられるのかもしれませんが……来年には学園を卒業して成人扱いされるのです、いつまでも庇護してもらえるものだと思ってはいけないのです。
私はできるかぎりあの講堂で彼らを諭したつもりですが、私を悪と断じていた彼らの中には何も響かなかったのでしょう。
そう思うと、とても難しいものです。
今回の決断も、大人たちが全てやってくれて受け止めてくれたものです。
勿論私たち当事者である子供も、貴族の子息令嬢としてそれなりの責務を負う立場である以上……相応の罰をいただいたわけですが。
(それでも、いつかは私も今回のように責任を負う側になるのだわ)
私は卒業したのですし、当たり前ですが。
ちなみに私への罰はすでに下っていると考えていいのでしょう。
何も言われてはいませんが、
それはまず一つとして、何もしなかったこと。
そのために受けた罰は大勢の前での婚約破棄宣言と、冤罪。
貴族の令嬢としては辱めの一種。
これはやり過ぎだと判断されたからこそ、名誉の回復を図るために私とレオンの婚約を早期で認めるということに至ったのでしょう。
今回、それで名誉を回復されたとしても講堂での一件は噂として当分消えることはありませんし……私に対する信頼がなくなったことも代わりはありませんもの。
そしてもう一つは、この場に立ち会わせること。
これは私が甘すぎる考えを持つことに対して、でしょうか?
(学生気分は捨てろと……そういう、ことかしらね)
当事者であることは当然ですが、私は被害者なのでこの場で断罪される彼らと直接対面する必要はないはずなのです。
そも、当主たちが決定権を持っていて私たちに発言権がない段階でいてもいなくても同じですもの。
いえ、裁かれる側は反省を促すためにも、自分の罪を突きつけられる必要があるのかもしれませんが。
いずれにせよ、この場に立ち会うことで、私は将来的に貴族の当主として……このような立場になった時、お父様たちのように淡々と、情を交えずに取り決めていけるでしょうか。
そうなれと、期待されているのか……ならねばならぬと発破をかけられているのか。
(受け取りようは、私次第ね……)
私はテーブルの下で、ギュッと手を握りしめるのでした。
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