第24話 当事者よりも、保護者に決定権がある

「ワーデンシュタイン公爵子息イザークについては公爵に判断を委ねよう」


「イザークとの養子縁組は解消し、生家である子爵家へ戻すこととします。それだけでは罰になりませんので、三ヶ月の謹慎。当家で与えていたものに関しては一部持ち出しを許可しますが、精査する形となりましょう」


「よかろう」


「その後の学園生活での言動を鑑みてこちらも子爵家及びイザークとの関係を考えたいと思っております」


「うむ」


 これは意見の交換ではなく、事実を確認して反省を促すのではなく、決定。

 ただ当事者は決定事項を聞かされているだけ。


 ここにいること、それが重要なのでしょう。


 弁明も、謝罪も、許されない。

 私も一歩間違えばあの場にいるのだと教えるためだけに呼ばれたのだと、そう感じました。


(成人前の子供がしたことだから、親が責任を取る。だけれど幼くもないから何をされるのか、言い訳すら許されない状況に置いて聞かせる……か)


 逆上しようにも、泣いて喚こうにも、それを許されない空気であることは確かです。

 私はまだ、お父様に〝守られている〟とわかっていますし、裁かれる側ではないからこそ余裕があるのですが。


 イザークがこの部屋に入ってきた際の反応を見る限り、この王城内でずっと軟禁されていたとはいえなんとかなるという楽観があったのではないでしょうか。

 それを打ち砕かれたからなのか、親子としての情があるから緩い罰になると思っていたのか、今はうなだれて顔を上げることすらありません。


 殿下とアトキンス嬢も、温情のようでそうでない陛下のお言葉を理解したのか、あるいはイザークが頼りにならないと理解したのかはわかりませんが俯いて何かを言っているようですが……聞き取れませんでした。


 そんな同輩の姿を見て、自分たちも似たように厳しい立場に置かれるのだと理解したのでしょう。

 ウーゴ様とエルマン様も、顔色が悪いです。

 ……いえ、エルマン様は顔が腫れているので少々わかりづらいのですが……。


「ちっ、父上! 私が愚かであったと認め、ここで正式にワーデンシュタイン公爵並びに令嬢ロレッタに謝罪をして関係を築き直すことは許されますか!」


 殿下が必死の形相で陛下にそのようなことを仰いましたが、陛下が視線をそちらに向けることはありません。


「……そうですわね、ロレッタはこれまでも王子妃教育をしっかりと受けた令嬢です。王家としても手放すには惜しいかと……」


 ただ、王妃様がまるで殿下を擁護するかのように微笑み、その言葉を受けて陛下に進言をしましたが……私は見てしまいました。

 王妃様が殿下に向けた視線は、とてもじゃありませんが子に向ける温かなものではありませんでした!


 本音は、最後の『王家としても手放すには惜しい』というところなのでしょう。

 やはり陛下が仰ったように、王妃様は私を第二王子の婚約者に据えようとしているのでしょう。


 ですが、それに対しても陛下はただ静かでした。


「愚か者。このような醜聞を起こし、何故謝罪でなんとかなると思うのだ。お前に情があってロレッタ嬢が受け入れたいと願ったとしても、ワーデンシュタイン公爵が認めぬ。なぜならば、他の貴族に対しての面目が立つまい」


「そうですわね。侮辱するような王族ともう一度などとなれば、ワーデンシュタイン公爵家が王家におもねるみっともない家だと言われてしまいかねないでしょう。……ですから陛下、第二王子であるキールを王太子に据え、ロレッタ嬢を婚約者に迎えてはいかがかしら?」


「それもならぬ。現段階でキールは隣国へ婿入りする方向で話が進んでいる。それを覆すのが第一王子の醜聞では周辺諸国にも顔が立たぬ。王太子は第三王子とすることで決定だ、それはお前も理解するように」


「ですが……! ならば、アベリアンを婿にすれば丸く収まりましょう!!」


「ならぬ。婚約者を辱めるような行動をとる浅はかな王子を婿になど、なぜあちらの王家が受け入れると思うのだ? 王妃よ、諦めよ」


「……アベリアン、お前が愚かな行動をしなければ……!」


 憎々しげにそう告げる王妃様は、美しい顔を歪めて……さながら、物語に出てくる悪い魔女のようでした。

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