第13話 ワーデンシュタイン公爵

「しかしイザークは何故ああなってしまったのか……」


「わかりません。あの子は自分が公爵家当主になれるものと信じて疑わなかったようで……中継ぎであることは当然理解しているものとばかり」


「ああ、我が家に養子となった時には勿論のこと、折りに触れては中継ぎの立場を忘れてはならないとわたしも、あれにつけた教育者も言っていたはずなのだがな」


 やはりお父様はきちんとイザークに中継ぎ公爵であるということは伝えていたようです。

 どうして、どこから誤解してしまったのか……。


(そもそもお父様が元気なうちはあの子もただの〝次期〟公爵というだけなのに)


 正式な跡取りが私であることは高位貴族たちには周知の事実。

 それを前提とした対応を社交の場ではされていましたし、同様に学園でも先生方はそのように接してくださいました。

 イザークと共にいた場でも優先順位は私で、公爵家の正統な後継者としての教育におけるお話などもさせていただいたのですが……あの子にはそれらが自分に向けてのものだと思ったのでしょうか。


「あの子は今後どうなりますか?」


「反省度合いに寄るな。勘違いをそのまま正当化しようとしているならば、それは乗っ取りを企む行為と見なし身分の剥奪を提言するつもりだ。こちらとしては勘違いをさせないよう当家の使用人を含め全ての者に中継ぎであることを明言しているし、それが王家との婚姻によるものであるゆえ隠し立てもしていない」


「……はい」


「もしも何者かに唆されたのであれば身分こそ剥奪にならぬよう働きかけるつもりではあるが、当主には不向きだろう。実家に帰し、その後も努力を重ねるようであれば援助は惜しまないつもりだ」


「そうですか、それを聞いて安心いたしました」


 養子と言ってもイザークとお父様の場合、親子関係を築くというよりは上司と部下という関係に近かったのかもしれません。

 中継ぎとはいえ、公爵位を継ぐかもしれない人間ということでイザークも幼い頃から多くのことを学んだのです。

 能力は決して低いものではなく、実家に戻ったとしてもこれまで学んだもの全てが彼の糧となるはずですから……今件で腐らずに前向きに生きてほしいと、義姉という立場からは思います。


(いいえ、もうお父様の中では他人なのだから私がいつまでも姉だと思っていてはいけませんね)


「王家側の都合による破棄として慰謝料を求めることもできるが、どうする」


「円満な解消、というわけには参りませんか。今にして思えば、私は可愛げの無い婚約者だったと自分でも思います。無論、それを理由に全てを許せるわけではありませんが……王家と公爵家の関係も考えてのことです」


「ふむ」


 お父様は少し考えてから、私に「続けなさい」と仰いました。

 頭ごなしに否定するのではなく、私の考えを最後まで聞いてから諭してくださるお父様は本当に素晴らしい方だと改めて思うのです。


 こんな風にできれば、殿下ももっと私の話を聞いてくださったのでしょうか。

 今となってはわかりませんが、私は小さく息を吐き出して改めてお父様と向き合ったのでした。

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