第4話 先輩として、教えてあげるべきこと

「……」


 殿下は苦虫を噛みつぶしたかのように口を歪めておいでですが、私は気になりません。

 撤回したいけれどできない、今きっとそのように思われておいででしょうね!


 私への愛情はなくとも、私の有用性・・・・・についてようやくお気づきになられたようです。


 とっくの昔に気づいていないといけない話ですが、自分から自慢するなんてとんでもない話ですし?

 口に出して殿下から余計な嫉妬をされても面倒ですし?


 だからといって放置していたせいで、殿下がこのように短慮な行動をしでかすおばかさんに成長してのは……私にも原因の一端があるのかもしれませんので、反省はしております。


(さて、殿下の苦手科目についてはお話したし、アトキンス嬢の刺繍とダンスが苦手なところもお話ししましたし……礼儀作法その他についてはもう教育係がなんとかするでしょう)


 そも彼女は下級貴族なので、高位貴族とはまた礼儀作法の学び方が異なることも多いですから。

 そこはいちいち私が口出しすべきことではありませんものね?


 イザークに関しては自分の立ち位置を理解していなかったことに驚きは隠せませんが、そちらについても私が判断を下すのではなく当主である父にお任せするのが筋です。

 殿下の婚約者に内定してから彼を義弟に迎え、私なりに姉として可愛がっていたつもりですが……こんなに愚かなところがあるとは思いませんでした。

 勉強はできる子だったんですけどね。


「他にお話しておくことはあったかしら……」


「ま、待ってください。ワーデンシュタイン公爵令嬢、貴女がカリナを虐めていたことはどう釈明するつもりですか!」


「そうだぞ! カリナに対し暴漢をけしかけたらしいじゃねえか!」


「あら……ウーゴ様、エルマン様。こう申し上げてはなんですが、殿下の婚約者候補をそのように親しげに呼び捨てにするのはあまり褒められた行為ではございませんよ?」


 学園内は平等。

 その言葉に浮かれて婚約者の立場など……と軽んじる方は多くおられますが、それはそれ、これはこれ。

 平等というのは意見を交わすことが身分によって損なわれてはならないという学びの姿勢であって、傍若無人に振舞うことではありません。


 そのことについても、入学式などの式典で学長先生が折りにつけ話してくださっているのですが……この方々は学園で何を見聞きしているのでしょうか。


「……ッ」


 私の正論はウーゴ様には伝わったようで、悔しげに口元を歪ませていましたが……エルマン様は私に対して怒りの感情を向けておいでですね。

 いずれは殿下の護衛騎士として華々しく生きるおつもりのエルマン様からすれば、殿下に婚約を破棄された私は見下すべき対象なのでしょうか?


 そんなこと、あるはずがないのに!

 笑ってしまいそうになるのをこらえて、私は扇子を広げて口元を隠しました。

 多少口元が笑みで歪んだとしても、これで隠せますものね。

 淑女の嗜みですわ!


「その件については完全に否定させていただきますわ。何故私だと断定できるのか、逆に伺いたいくらい!」


「……ッ、カリナが殿下の寵愛を得たことに対して貴様が家の権力を持ち出して排除しようとした結果だろうが!」


「あらまあ」


 呆れてものが言えないとはまさにこのことだわ。

 エルマン様の生家であるモレノ伯爵家は高位貴族に一応数えられるくらいに資産を持ち、これまでも有能な騎士が多く生まれた家柄。


 だからこそ、その程度・・・・のことも理解できていないことにがっかりしてしまいました。


 でもこれも先輩として、卒業する身として、導いて差し上げるべきことなのでしょう。

 今後の糧として、是非活用していただきたいところです!

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