隣の席の澤崎さんは俺との距離が近い
四ノ崎ゆーう
プロローグ
人との距離感なんてどれも一緒だと思っていた。
俺、
だか、みんな何故か高校生になると付き合いだす。実際、俺の親友にも彼女ができた。羨ましい……そういう感情がないと言えば嘘になる。しかし、彼女なんていらないと思ったのもまた事実。デートに行ったりプレゼントを送ったり、そんなことにお金や時間を割くぐらいなら趣味に時間を費やした方がよっぽどいい。
なんて思ってることも、ホントは強がって言っているだけのしょうもない戯言に過ぎないのかもしれない。
まっ、男っていう生き物は大体そんなものだ。
(はぁ……俺にも仲の良い女子でもできたらなぁ……)
俺は彼女いない歴=年齢に加えて女子の友達もろくにいない。
そりゃ、彼女ができないわけだわな。
俺が最後にできた女友達って言えば幼稚園の時によく遊んだあの子……ぐらいか。あの子は小学二年生ぐらいの時に引っ越しちゃったからな。それに、今はもう忘れられてるだろうし。
高校では、彼女いない歴=年齢に終止符を打ちたいと思いながらスタートした高校生活であった。
そして、ようやく俺にも転機が訪れたのは、学年も上がり、クラスも変わった新学期。高校で初めて女子から話しかけられた。
話しかけてきてくれた女子は隣の席の女子。
「ふふ。成李くん、今日からよろしくね?」
「お、おお。よろしく……な?」
急に話しかけられたもんだからキョドった反応をしてしまった。折角のチャンスなのによくない失態だ。
(それにしてもコイツ、なんで俺の名前知ってるんだ? どこかで会っただろうか……)
ふと疑問に思ったが、よくよく考えれば座席表は前に貼ってるわけだからそこを見れば隣の人の名前ぐらいはわかる。
(あれ? でも、座席表に書いてあったのって苗字だけじゃ……)
キーンコーンカーンコーンというチャイムの音で考察途中だった頭が現実に戻される。
ガラガラと扉を開けて新しい担任の先生が入ってくる。
「今から朝礼を始める。まずはじめに、転校生を紹介する。澤崎、前へ」
「はい!」
先生が突然そんなことを言うもんだから教室が一気にざわめく。
澤崎って誰? という思考を回すまでもなく、答えは俺の横にあった。
(アイツ、転校生だったのかよ……)
喋りかけてくれた隣の席の女子は転校生だった。
普通は先生に呼ばれて入ってくるのがベターだと思うが、今回はそういうのではなくて、既に教室にいるというなかなかない形だ。
「
ヒソヒソと男子共が、「美人じゃん」や「かわいいー」、「一目惚れかも」とか言っているのは傍から見ても丸わかり。
男子達は静かに盛り上がっていた。
「はい。じゃあ、席に戻っていいぞ。……皆知ってると思うが改めて私の自己紹介をしよう」
澤崎さんが席に着いたのを確認して先生の自己紹介が始まった。
――二年二組担任、
正直、今回の担任は大当たりだと思っている。
男女関係なく人気のある先生であり、二十代と若くおまけに美人だ。
いつもポニーテールをしている星野先生だが、ショートカットにすれば美少年にだってなれてしまうだろう。ホントに綺麗って罪だと思う。
こんな素晴らしい先生が担任なら、男子だけではなく女子も嬉しいことだろう。少なからず俺はものすごく嬉しい。
きっと、いい一年になるに違いない。
「ねぇねぇ、あの先生って人気なの?」
隣の席の澤崎さんが業間休みの時に聞いてくる。
そっか、転校してきたばっかだから知らないのか。
「そう。星野先生は全生徒から人気の先生なんだ。みんなの間では『恋愛のプロフェッショナル』なんて呼ばれたりもしてる」
「え、恋愛のプロフェッショナル?」
「うん。先生の担当教科は音楽だけど、若者の恋心にめっちゃ詳しくて、星野先生に恋愛相談した生徒は高確率で付き合えるらしい」
「へぇー、面白い先生だね。しかも美人だし」
やっぱり、女子目線でもあの先生は美人らしい。
あまり笑顔を見せない先生だが、その凛々しい表情が先生の美しさを際立てていると俺は思っている。
しかも、あの美貌を誇っていて今フリーだという噂を耳にする。下手したら生徒と教師のいけない関係が出来上がる可能性もあり得る。
そうなってしまうと先生が飛ばされるからなるべくやめてほしいが……。男子達の欲望がどこまで抑えられるかがカギを握ってくるのではなかろうか。
「澤崎さん、はじめまして! 私は
「僕は
「さきっちー! あたし、
おっと、早速俺の隣に女子が集まり始めた。しかも、全員キャラ濃い。
澤崎さんの周りに集まったのは、清楚系でみんなを正しい道に導く、生徒会役員の里野さんにボクっ娘に加えイケメンなせいで女子からの人気がえげつない赤幡さん。誰にも負けないコミュ力を持ち、彼女の明るい性格は雨雲をも跳ね飛ばす、生徒会役員の白神さん。
このグループは言わずと知れた学年の有名グループだ。
赤幡さんを筆頭としたこの
学年一位の頭脳を誇り、美人の頂点に立つ
この二つのグループは体育祭になると互いに激しい対立をする。
この学校のチーム分けは各学年グループ制になっており、そうなると必然的にうちの学年では赤幡軍と鐘鈴軍に分かれるわけだ。
ちなみに俺は去年赤幡軍に付いた。
そんな赤幡軍の勧誘を澤崎さんは受けている。
つまり、赤幡軍の援軍ではなく本軍に入るということだ。
しかも、このグループが勧誘しているなんて初なんじゃなかろうか。
たが、キャラを見ていくと里野さんと被りそうだ。でも、案外清楚二はバランスがいいのかもしれない。清楚系はたくさんいて困るというほどのものではないだろうし。
「よろしく。あたしのことは華奈って呼んでくれたらいいよ」
「わかった! 華奈ちゃん」
「そうさせてもらうよ。華奈」
「カナっちよろしく!」
それぞれの呼び方からも性格がにじみ出ている。
「それで、どうだい? 僕らの友達にならないかい?」
「え、いいの?」
「ああ、もちろんさ。君は可愛いからね」
しれっと顎クイをかます赤幡さん。本当にイケメンだ。
周りの女子がキャーと興奮して騒いでいる。女子からしたら是非一度はされてみたいことだろう。
男子はイケメン女子より目立たないため悔しそうな表情を浮かべている。
「あ、ありがとう。えへへ……」
澤崎さんもちょっと嬉しそうじゃないか。
「これからいーーっぱい遊びに行こうね!」
「こう、クセの強いメンバーだけど、みんないい子だから安心してね」
「ははは。そうだね。特に、梨央はこう見えて結構ヤバ――」
「よく喋るお口はここかなぁ??」
「ごめんごめん! 悪かったよ! 梨央ぉー!」
清楚系な里野さんでもちょっとヤバめな一面はありそうだ。
その横で楽しそうな笑顔を浮かべる澤崎さん。すぐにクラスにも学年にもに馴染めそうだな。
しかし、赤幡軍の三人がこのクラスに勢揃いしたのはすごいな。こういうメンバーこそクラス替えでは離される対象かと思ってた。実際そんなことはないみたいだ。
俺もクラスで友達作らないとなー。俺の親友クラス離れたし。
まっ、楽しそうなクラスだし、ゆっくりやってくか。
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