一章

宮城県石巻市 そんな港町の小学校に俺は通っていた。山の中にその校舎を構えており、秋は紅葉が綺麗でしばしば近所の人も見に来るような学校だった。

冬を迎えた頃、俺は一人で放課後の人気の無い校舎を徘徊していた。時刻は17時を回っている。本来なら家でゆっくりしているはずの時間だが、僕はまだ校舎の中にいた。そして、ちょうど音楽室の前を通りかかったところで、ピアノがなっているのに気がついた。そのピアノは、俺が来る前からなっていたような気もしたし、たった今弾き始められたような気もした。その演奏は綺麗だった。我を忘れ無意識に音楽室の扉を開け、ピアノの近くに腰を下ろした。どうやら弾いているのは女の子のようだ。顔も分からない女の子の演奏が今はこの上なく心地いい。この心地いいバランスを崩したくなくて、僕は女の子の演奏が自然に止まるまで静かに聴いた。

演奏は僕が聴き始めてから20分程して止まった。

「よかった。」

思わず口から出た言葉はシンプルだった。

「ありがとうございます。ところで演奏はどうだった?」

僕が誰なのか何故いるのかを聴いてこないあたり、この子も変わった子なのだろう。僕と同じように。

「泣いていた。」

「え?」

「音が泣いていたよ。」

「あなた変わった感性をもってるのね。」

女の子はクスッと笑いながら言った。

「変わってるのは、知ってる。よく言われるから。」

僕は友達がいない。もしかしたらいたのかもしれないけど、そんなこと僕には分からない。

「明日もここに来て。また聴かせてあげる。」

女の子はニコニコしながら去っていった。

これが、僕とあの子との出会いだった。




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