滲色の空

TARO

君と一緒にみた

 灰色のコンクリートの壁がところどころ剥げていて、建物の年季を感じさせている。どこか湿り気を感じさせるその空間は、私の心を写し取っていた。

「ここ、数字間違ってますよ。すぐに直してください」そう、年下の女性社員に指摘され、普段なら感じ良く対応するのだが、思わず剣呑な態度を取りかけ、慌てて誤魔化した。とはいえ、不愉快な感情はそのまま残っていた。苛立ちは思考を回転し、やがて憎悪へと変化していく。そうならないために、私は時々屋上を利用していた。その日の午後、私はタイミングを見て職場を抜け出し、会社の屋上を目指していた。本当は、午前中に行きたかったが、チャンスがなくて、平然を演じ続けた。色々考えあぐねて、仕事にならず、最悪だった。

 屋上に向かうにはエレベーターで最上階に上がってから、途中で非常階段を登らなければならない。晴れていれば誰かとすれ違うことが多いが、今日は天気が悪く、朝から小雨が降ったり止んだりしていたので、おそらく私一人だろうと思っていた。ところが、非常階段に通じる鉄製の重いドアに手をかけようとしたところ、不意に向こうから開いて、屋上から降りてきた人物に出くわした。私は思わず会釈しながら目を伏せたが、一瞬見た相手の顔に知っている顔を思い出し、振り返ったが、もはや後ろ姿でしかなかった。

(いるはずないよな。そもそも…)記憶の中の少女の面影を、とっさに知らない女性社員に投影してしまったのだ。

 階段を登る途中で、脳裡にあるフレーズが浮かんで、いつの間にかそれをリピートしていた。思い出したのだ。それは、昨日からずっと思い出そうとして思い出せなかった、あるアニメの主題歌だった。少女が互いに切磋琢磨して、協力して困難に立ち向かう、という、ありふれたストーリー。凡そ私の趣味ではないにもかかわらず、私はそれを良く見ていた時期があった。

 それと共に思い出が蘇り、私の目は涙に霞んだ。




 

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