第45話 ロディ、街を出ることを決意する
ある日の夜。
ロディたち5人は宿の1室に集まっていた。
集まった理由は、”これからの方針”を話し合うため。
「ザイフの街に来て1年がたった。そこで、パーティの今後についてみんなの意見を聞きたいと思う。具体的には、ザイフの街を出て旅を続けるかどうか、だ。」
こうロディが切り出して、皆の顔を見回す。
最近5人の間でザイフを出るか否かという話が個別に取りざたされていた。
元々旅をする前提で組んだ5人のパーティだ。ただザイフの街は5人の肌に合ったのか、長期逗留をしている。
しかしこのままでいいのか、という問いが5人の中に少しずつ頭をもたげていたのだった。
「じゃあまず私からでいい?」
最初に発言したのはエマ。
「私としては、この街でやれることはほとんどやり切ってしまったので、街を離れてもいいと思うんだ。」
エマはザイフの街を旅立ち、別の街に移動することが希望のようだ。
「俺もいいぜ。」
テオがそれに続く。
「俺たち3人はここの中級ダンジョンに結構潜っていたんだ。だいぶ強くなったんだぜ。外に出てもやっていくだけの自信はある。」
テオの言う通り、彼はレミアとともにはすでにDランクになっておりかなり力をつけている。元からDランクのエマを含めて3人で中級ダンジョンに頻繁に潜っているし、エマはもう少しでCランクになれるほどだ。
「この街の美味しいものは食べつくしたのだ。また別の街に行って、まだ食べたことの無い美味しいものを見つけるのだ。」
レミアだけは相変わらずの食い気専門だったが、ともかく3人の意見は一致していた。
3人の様子を眺めていたロディは、視線をナコリナに向けた。ロディと目があったナコリナは、少し躊躇していたが、おもむろに口を開いた。
「私も、正直に言うとそろそろ街を出てもいいと思う。ポーションづくりの腕も上がったし、これならパーティに貢献できる自信があるわ。けど・・・」
ナコリナは言いよどむ。
「けど?」
「・・・ロスゼマさんに何て言えばいいのかな。これまでいろいろ教えてくれたのに、自分の都合で勝手に居なくなってしまったら、どう思うだろうなって。」
ナコリナはロスゼマのことを思うと後ろ髪が引かれる思いなのだ。
ロディはナコリナのそんな気持ちを理解できた。ロディもフェイに対して同じ感慨を抱いているのだ。
「そうだね。俺も、ナコリナと同じだ。これまでいろいろと教えてくれたフェイ師匠と別れるのはつらい。このままこの街に居たいという気持ちも正直ある。」
ロディは一呼吸おいて全員を見回した。
「でもやっぱりそれじゃあだめだと思う。ここで安定した生活を送っていると、いつまでたっても目標のAランクには到達しないだろうと思うんだ。」
結局は5人とも、ザイフの街を出て旅を続けることは一致していた。
「よし、パーティとしての結論。街を出て、5人一緒に旅を続けよう。」
5人は少し安堵の表情を浮かべていた。もしかしたら意見が割れて、パーティが別れ別れになってしまうかもしれなかったのだが、それは杞憂だったようだ。
ザイフを旅立つのは決まった。あとはそれをフェイやロスゼマたちに伝えなければならない。
「ナコリナ。明日一緒に師匠の家に行こう。ロスゼマのお店は明日休みなんだろう?たぶん彼女もいっしょにいるよ。そこで2人で話をしよう。」
2人が一緒に居れば、言い出しにくいことも少しは勇気が出て後押ししてくれる。
ナコリナは頼もしげにロディを見て、ニッコリと頷いた。
◇◇◇
ところであのエリー誘拐未遂事件からしばらく経っているのだが、エリーは相変わらずフェイの家に腰を落ち着けたまま動いていない。というよりも、もう本格的にそこに住もうとしている。
その理由として、一つはエリーの警護のしやすさが挙げられる。
元々旧王城には王族としてエリーが一人で住んでいたのだ。
旧王城はかつての王の居住場所であったためにかなり広く、しかし人手を割くには予算がかびられるため、監視などの目が届かない部分も多くあったのだ。
今回の襲撃事件で脆弱性が露呈され、エリーがこのまま王城に住むには警護がこれまでの倍は必要と試算されている。
これに対しフェイの館(旧離宮)ならば王城の1/4程度と小さいため警護がしやすい。しかもかつては離宮だったこともあり、太后が居住するのにも十分である。
そのため、フェイの館ではあるのだが、着々とエリーの住むところとしての警護体制が整えられていたのだった。
そしてエリーが引っ越しをしない最大の理由が、エリーが「ここが住みやすいから動きたくない。」と言って引っ越しを拒否しているためだ。
そう言った理由で、なし崩し的にフェイの館にエリーは住み続けている。
「ワシの家じゃぞ!!なんでいつまで住み続けておるんじゃ。」
とフェイが猛然と反論してはいるのだが、
「元々離宮を借りているんだからいいじゃない。いやなら返してもらうわよ。」
と言われてぐうの音も出なくなってしまっていた。
そして、ついでにではあるが、
「エリーとフェイとが一緒に住むんじゃ外聞が悪いだろう。私も一緒に住んで、ついでにフェイを監視してやるよ。」
と言って、フェイの館の空いた一室に強引にはいり込み居場所を確保した者がいた。
その名をロスゼマという。
女性2人に家を半ば乗っ取られた形のフェイは、己が境遇を嘆き、天に向かってこう言葉を発したとか、しないとか。
「何が悲しゅうて老女2人と一緒に住まねばならんのじゃ。あと40年・・・いや、せめて30年若ければのぅ・・・。」
◇◇◇
「なんじゃ、5人そろってどうしたんじゃ?」
翌日、フェイの館を訪ねた5人は、リビングに通された。
そしてそこには、フェイ、ロスゼマ、それにエリーの3人がティーカップを前にくつろいでいた。
3人の視線に少し緊張していたロディは、しかし意を決して口を開いた。
「師匠に、・・・いえ、3人に伝えたいことがあります。」
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