未来の賢者ロディの間違い探し冒険譚

灯火楼

プロローグ

プロローグ

 鬱蒼と木々が茂る森の中に、古びた館があった。

 その館はやや小高くなった丘の上にあり、周りの森が見渡せる位置にある。

 館の外見はかなりの部分が破壊されたように壊れており、残った壁はツタに覆われ、庭であったであろう所は様々な木々や雑草が生い茂っている。

 よく見ると、その館のある小高い丘の周辺にも人工物と思われるものが見え隠れしているのがわかる。壊れた石壁、朽ち果てた柱、地面に見える石畳の一部・・・


 ここはかつて街があった場所。そう、過去の話だ。

 おそらく人が住まなくなって数十年は経っているであろう。その間この場所は自然の森や動物に侵食され続けており、人がいた痕跡は飲み込まれるように徐々に消え、今はわずかに痕跡として残るのみである。


 この人住まぬ廃墟の館に珍しく訪問者があった。

 その訪問者は数人のグループで、全員がいわゆる冒険者といったいでたちをしている。先頭を進む青年は若く、まだ20そこそこの年齢に見える。そしてその目は強い意志が宿っているように爛々と輝いていた。

 彼らは数十年間の障害を取り除きながら進み、そしてその古い館に入っていった。


◇◇


 数刻後、その青年は館の地下の一室にいた。

 そこは5m四方くらいの石壁に囲まれた殺風景な一室。だがここは破損は見られない。館のほとんどはあらかた損壊していたのだが、この部屋は頑丈な扉のためか入る者、動物もなく、数十年ものあいだ破損を免れてた。

 その殺風景な部屋の中央にただ一つ、石造りの台座が置かれている。台座は大きさ1mくらいの立方体で、長年放置されたものだが壊れたりしておらず、ただそこに静かに鎮座している。


 最初にここに入った青年は、その台座を見た瞬間「あっ!」と声を上げた。そこには円形の外周の中に何やら複雑な線や記号のような模様が描かれていた。


『魔法陣』である。


 魔法陣とは、魔法を使用するための媒体となる神秘の模様だ。青年は歓喜の表情でその魔法陣を一心不乱に見つめ続けた。




「どう、ロディ。何かいい物は見つかった?」


 どのくらいたっただろうか、不意に青年の後ろから声がかかる。その青年の名はロディというのであろう。集中していた彼は近づいた人物に気づかなかったようで、あわてて振り向いた。


「あ、ああ。ごめん、集中していたよ。」


 ロディと呼ばれた青年は、少し恥ずかしそうに頭を掻きながら声の主に言った。ロディの目の前にいる声の主は女性だった。ロディと同じくらいの若い女性で、ロディに笑いかけながらふと、台座とそこに描かれたものに気づいた。


「あ、それ・・・魔法陣!」

「そう、魔法陣だ。」


 ロディは少し微笑みながら女性言葉を肯定した。


「こんな部屋に大きな魔法陣があるなんて。・・・それにこの部屋、全然崩れてないわ」


 女性はしばらく魔法陣を見つめていたが、やがて台座から目を離し周囲を見回してから言った。


「ああ、それだけ大事な魔法陣だったんだろうね。今は魔力が切れて動かないようだけど。」

「もしかして森の真ん中に街ができたのは、この魔法陣の力かしら。たぶん、・・・結界魔法?」

「そうだろうね。」


 女性は魔法陣を結界魔法と予想し、ロディは魔法陣に触れながら頷いた。


 廃墟の街の中心の館の一番頑丈な地下室に置かれた台座の魔法陣。これが結界、もしくはそれに類する効果を発揮し、魔物などを近づけないようにしてそれによりこの地に街を作ることができたのだろう。2人にはそう推測できた。


「じゃあさ、これに魔力を補充すれば魔法陣が働いて、またここに結界を張ることができるんじゃない?」


 女性が目を輝かせながら魔法陣を見つめる。彼女はすぐにでも魔法陣を起動させたいようだ。しかしロディはその言葉に首を横に振った。


「うーん、俺は無理かなって思う。出来ても一時的なものだよ。」

「え、どうして?」


 意外な言葉に女性はロディに訝しげな眼を向ける。ロディは少し笑って、しかしはっきりと言った。


「だってこの魔法陣、間違ってるから。」

「え!?」


 ロディの言葉に驚いた表情の女性だったが、すぐに納得した表情に変化していく。その顔を見てロディは言葉をつづけた。


「俺はこの魔法陣の間違いが見える。この街が今は廃墟になってしまった理由が、この間違いの部分にあるんじゃないかと思うんだ。」

「そうなのね、残念。この魔法陣で街を復活できるほど簡単じゃないのね。」


 女性は残念そうにため息をつくが、ロディは逆に元気よく女性に笑いかけた。


「大丈夫。間違っているんなら直せばいい。」


 ロディはくるりと体を反転させ、再び魔法陣を見つめながら言った。


「直せばこれは正しい魔法陣になる。そうしたら元の魔法陣よりもっとすごいことが出来そうだと思わないか?」


 そう話すロディの顔は、彼の、いや彼らの未来を照らすかのように明るい。

 ロディの頭には今、新しい魔法陣と、そして新しい街の姿が、幻想ではなく現実の姿としてありありと映し出されているのだった。


    プロローグ ー了ー

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