第1章
第1話 ロディ、夢を見る
ここはどこだろうか。
白い壁の大きな家がある。そして僕の目の前には大きな扉がある。
いや、大きいんじゃない。僕が小さいから、扉が大きく見えるんだ。
ふと右を見ると、女の子がいた。その子は2歳くらいで、みすぼらしい服を着ている。そういえば僕の服も同じくらいみすぼらしい。
その子は僕と手をつないでる。ああ、そうか。僕はこの子と手をつないでいたんだ。
その子は何もわからないかのように周りをきょろきょをしていたが、僕が見つめているのに気づいてニコッと笑った。愛らしい笑顔だった。
この子の名前は・・・
思い出そうと考え始めた時に目の前の扉が開き、すこし小太りの大人の女の人が出てきた。その人は僕と女の子を見るなり、驚いたように声をあげ、後ろを振り向いて何事か話して、そして僕らの目の前にかがんで肩に触れ、話しかけてくる。
でも声は聞こえない。口の動きでこの人がしゃべっているのは分かるけど、音が全くしない。そういえば、周囲の音も全然聞こえない。全くの無音だ。耳が聞こえなくなったのかな。
ふと僕の右手が強く握られた。みると、女の子が怯えたような表情で僕を見ていた。
僕は女の子に
『怖くないよ』
と声をかけた。不思議なことに僕が話しているはずの声も聞こえなかった。
しかし女の子は僕の『声』が聞こえたのか、安心したように笑顔になり頷いた。
『僕はこの子を守らなきゃ』
どうしてだかわからないが、この子の笑顔を見て僕はそう強く思った。
そして僕らは、大人の女の人に導かれるように家の中へと進んで行った。
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「・・・・・ちゃん。・・・て。・・・・・ってば。」
「・・・ん、・・・」
「お兄ちゃん、起きて。お兄ちゃんってば。」
ロディは自分を呼ぶ声に意識を浮上させされ、かすかに目を開いた。
「ん・・・、もう朝か。」
次第にはっきりしてきたロディの視界には、女の子が映っていた。
「やっと起きた。今日はいつもより寝坊助さんじゃないの。」
女の子の声に、ロディは起き抜けの頭を少しずつはっきりとさせていく。と同時に、さっきまで見ていた夢も思い出していた。
「夢か・・・。あの時の夢を見るのは久しぶりだな。」
そうつぶやいて上半身を起こして、そばにいる女の子を見た。
その子はエマ。ロディの2歳違いの妹だ。
エマは、10歳相応の身長、体形をしており、栗色の髪でショートカットが似合っている。青い瞳は大きくくりくりしてい、明るい笑顔が目を引く活発そうな女の子だ。
さっきロディが見ていた夢に出てきた女の子はエマだった。
ロディとエマの兄弟は、今孤児院で生活している。彼らが幼いころ、孤児院の前に立っていたのを保護されたのだ。
ロディの夢は、その時のロディの記憶。この夢はこれまで何度か見ていたため、ロディにはその時のことが鮮明に思い出せる。残念ながらその前の記憶はまったくない。だから自分の親がどんな人だったか、生活がどうだったか、なぜ孤児院に入れられたのか、まったくわからない。
「お兄ちゃん、早く起きて。他の子はもう全員起きてるわよ。朝ごはんなくなっちゃうわ。」
エマがロディをせかすように言う。
「ああ、ゴメン。すぐ起きるよ。」
「まったく、しゃんとしてよ。今日のことが楽しみで眠れなかったの?」
「楽しみ・・・。あ、そうだった!」
ロディはエマの言うことに気づいてベッドから跳ね起きると、あわてて着替え始めた。
今日はロディが12歳になって初めての春の1日目の日。この日はロディだけでなく、12歳の子供たち全員にとって”特別な日”なのだ。それは、12歳の子がそれぞれ固有の能力である”ギフト”を授かる特別な『鑑定の儀』の日のこと。
『楽しみだな。どんなギフトが授かるだろう。いいギフトならうれしいな。エマの為にもいいギフトを授かって、いい仕事に就きたい。』
ロディは着替えながら、今日授かるはずのギフトの事に思いを馳せていた。
しかし、今のロディにとって重要なのはギフトの事じゃなかった。
「おにいちゃん、急がないと朝食がなくなるかもしれないわよ。」
「! やばっ、朝食。」
このままでは朝食を食べそびれて空腹のまま儀式に向かうことになる。
ロディは急いで着替えを終え、足早に食堂へと向かうのだった。
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