間章 ショートストーリー
SS1話 古びた依頼
これはロディたちがミズマの街を出て旅をする途中での話。
ミズマから北上し、まずはザイフの街を目指そうと進んでいた一行は、その途中のオーゴリの街で思わぬ足止めにあってしまった。
まずオーゴリの街に着いてすぐ、レミアとテオが体調を崩して発熱してしまった。どうやらダンジョンから出ての旅にかなりの負担がかかっていたようだ。
本人たちは「それは関係ない(のだ)。ただの風邪だ(なのだ)。」と言い張っていたが、無理をして疲労を隠していたのだろう。ロディモナコリナも、それを見抜けなかったことに反省しきりだった。
幸いなことに熱はすぐに下がり、用心しておーごりの街にそのまま1週間ほど逗留して体を休めることにした。
そしていざ出発しようとしたとき、事件が起こった。王室と貴族の紛争が発生したのだ。先の政変の時に失脚して勢力を落とした貴族が王に対して反乱を起こしたというのが事件のあらましだ。
そのため紛争地周辺の街道の通行が制限されることとなり、オーゴリから北の幹線道路が封鎖されてしまったのだ。これによりロディたちは先に進むことができなくなってしまった。
幸いその反乱は大規模なものではなく、オーゴリの街が巻き込まれる可能性も小さいらしい。
そういうことで、オーゴリの街でロディたちは予定外の逗留を続けることになってしまったのだ。
彼らのオーゴリでの逗留はすでに1か月近くになった。当初は秋の間にザイフに着いて活動している予定だったのだが、今はすでに初冬。街に吹く風も日に日に冷たくなっている。
「まったく。反乱なんていい迷惑だわ。冬を前にザイフの街に行きたかったのに。」
「仕方ないよ、自分たちではどうにもならないことさ。」
ナコリナが移動できない恨みをぶつけ、ロディがなだめる。
今日はロディとナコリナの2人で依頼を受けようとギルドに向かっているところだ。
彼らはオーゴリでの長い逗留を無為に過ごすことはせず、いい機会だということでこの街のギルドで積極的に依頼をこなしていくことにした。
テオとレミアは2人で依頼を受けていて、エマは買い出しで街へ出かけていた。冒険者ランクを上げるには依頼達成などの貢献度も必要だ。ギルド登録したばかりのテオとレミアは現在最下ランクのFランク。これを早く上げたいと、病気が癒えた2人はほぼ毎日依頼を受けてこなしている。
ロディ、エマ、ナコリナもそれに触発されたようにギルドで依頼を受けることが多くなっていた。ランクが異なるためテオとレミアと一緒に受けられる依頼は少ないのだが、2人を手伝ったり、あるいは個別に受けたりして足止め期間を有意義に過ごしていた。
ギルドに入り、2人はすぐに掲示板へと向かう。すでにめぼしい依頼は取られてしまっているだろうが、2人はがむしゃらに依頼をこなして稼いで行く必要はないので、残った中で適当に気に入った依頼を受けるつもりなのだ。
「さすがにめぼしいものは無いわね。」
掲示板を眺めていたナコリナがため息交じりに言った。
割のよさそうな依頼はすでに取られていて、残ったのはあまり賃金がよくない、もしくは危険が伴う依頼ばかりだ。
ロディも苦笑しつつ掲示板を眺めていた。
その時、ロディはふと目に入った掲示板の端のほうにある古びた依頼紙に気づいた。その依頼はほかの依頼用紙より明らかに古く、色が茶色がかっていた。
(変だな。古い依頼みたいだけど、前に見たときは無かったと思うんだけど。)
ロディは気になってその紙を手に取って依頼内容を読んだ。そこにはこう書いてあった。
--------
小物入れ探し
依頼内容:50年前に埋めた小物入れを探して掘り出してほしい。
詳細は面会してからお伝えします。
依頼料 :依頼達成で金貨3枚
期限 :なし
依頼者 :モリス・ブラウン
--------
(探しもの依頼か。達成報酬は・・・金貨3枚だって!?)
「ロディ、何かいい依頼はあった?」
ロディが依頼を手に取ったのに気付いたナコリナが近づいてきた。
「ああ、いい、というか良すぎる依頼だけど。」
そう言ってロディは依頼紙をナコリナに渡した。ナコリナはそれを一読して驚いたように言った
「金貨3枚!しかも依頼内容は無くしたものを探すこと。なんだかすごく面白そうじゃない。」
ナコリナはすでに乗り気になっていた。
「うん、すごく割のいい依頼だ。だけど依頼料が高いってことは達成が困難ってことだろうね。それにこの紙がすごく古いのも気になるんだ。」
「そういえばそうね。」
ナコリナもひとしきり依頼紙を眺めていたが、すぐにカウンターへと向かった。
「気になるんだったら職員さんに聞いてみましょう。」
ナコリナのさすがの行動力に苦笑しつつ、ロディは彼女の後に続いた。
「すみません、この依頼のことで聞きたいんですが。」
ギルドのカウンターはすでに混雑の時間が終わり、閑散としていた。そのなかでカウンターに座っているメルテという名の受付嬢に問いかけた。彼女はこの街で依頼を受けているうちに懇意になった受付嬢だ。
「ナコリナさん、ロディさん、こんにちは。この依頼ですか。」
メルテは手に持った依頼書を見てやや顔を曇らせた。
「やっぱり、何かいわくがあるんですか?」
メルテの顔色を見てロディが尋ねた・
「ええ、この依頼は1年位前から掲示板に張り出されていたものです。」
メルテはこの依頼のいきさつを説明した。
「1年前、この依頼者のモリスさんという方から、小物入れを探してほしいという依頼を受けました。その小物入れはどうやらどこかに埋められたまま忘れ去られてしまったらしく、モリスさんが散々探しても見つからなかったそうです。そして藁にも縋る思いでギルドに依頼をしてきたと聞いています。
最初はこの成功報酬につられ、たくさんの冒険者が依頼を受けてモリスさんに会いに行ったんですが、結局誰も依頼達成できなかったんです。」
高報酬だが、達成が難しい依頼ということのようだ。
「依頼達成できずですか。危険な場所にあるとか?」
「いえ、危険なことは特にないんです。ただ探す場所が漠然としていて明確な場所がわからないそうなんです。しかも地下に埋まっているとなるととても探せるようなものじゃないと依頼を受けた冒険者たちは言っていました。今ではこの街の冒険者で依頼を受ける人はいなくなりました。なので3か月ほど前にモリスさんから依頼を取り下げられていました。」
「じゃあ今日依頼紙が掲示板に貼ってあったのは?」
「数日前、モリスさんからどうしても再度依頼させてほしいと言われてきまして、それで今朝から張り出していたんです。ただこれまでの話が知れ渡っているので誰も手に取りませんでしたが。」
「ふーん、なるほど。」
今までさんざん失敗してきた依頼を再度依頼するとなると、何か理由があるのかもしれない。
「ねね、今日は碌な依頼も残ってないし、試しにモリスさんのところに話を聞きにいかない?」
ナコリナがやはり興味津々でロディに言った。
「そうだね、俺も面白そうだとは思うけど・・・」
ロディはメルテに尋ねた。
「この依頼の失敗のペナルティはあるんですか。」
「いえ、ありません。モリスさんより失敗のペナルティは設けないでほしいと言われていますので。」
「失敗ペナルティ無しなら受けてみてもいいかな。」
ロディの言葉を聞いて、メルテは少しだけ笑みを浮かべて言った。
「ギルドとしてはこれまでの経緯から達成が難しいと判断してお勧めしていませんが、それでもいいのでしたら受注を受け付けます。」
ということで、ロディたちはこのいわくつきの古い依頼を受けることになった。
「さっそくモリスさんに会いに行きたいんですが、どこに住んでいるんですか。」
「そうでした、お二人は最近来たばかりでモリスさんを知らないんですね。」
メルテは簡単な地図を描いてナコリナに手渡した。
「この通りに行けばすぐにわかりますよ。驚かないでくださいね。」
「「?」」
メルテが意味ありげな笑顔を向けてきたのだが、2人には何のことかわからなかった。
2人はギルドを出て地図を手にモリスの家を目指した。
◇◇
「・・・道、間違えたかな?」
「いえ、間違ってないみたいよ。」
2人はモリスの家の前で呆然と見上げていた。
(なるほど、メルテさんが『驚くな』というはずだ。)
ロディはようやくメルテの言葉に合点がいった。
彼らの目の前には門があり、噴水がある庭があり、その奥にはまるで貴族かと見まごうばかりの大きな館があった。
オーゴリで一番の大豪邸、それがモリスの家だった。
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ショートストーリーを公開いたします。しかし6話くらいになりそうで、ちっともショートじゃなさそうな予感が(笑)
でも楽しんでいただければと思います。
ところで新作を作成してます。第1章をUPしていますので、良ければそちらも読んでください。
「フォーチュン・イン・ザ・ボックス ~幸運は箱の中に~」
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