第29話 ロディ、殻をぶち破る

「分かったぞ!「修正」ギフトは、この空白部分が”おかしい”と俺に伝えているんだ。」


 ようやくギフトの”意思”を理解したロディだったが、じゃあどうやって”空白”に魔力を通せるのか考えて、はたと困った。

 誰も知らない『魔力の空白』への対応方法など当然誰もわかるはずはない。自分でいろいろやってみて解決するしかないのだ。


「うーん、まずは魔力をぶつけていくか。それしか方法が思いつかない。」


 ロディは空白に変化を起こすため、魔力を”卵”に衝突させていくイメージで動かし始めた。


 ロディは魔力を循環させながら、空白部分に近くに来た魔力を加速させて激突させる。これまで毎日魔力制御の訓練をやり続けたロディだからこそできる魔力の使い方だった。

 魔力はしかし、”卵”の外縁に接触したかと思うと弾かれてしまう。まるで分厚い壁に小石を当てているかのように跳ね返り、壁は全く無傷、そんな感じだった。

 無駄なのだろうか?

 しかしそこはギフトが指し示すポイントだ。絶対に何かあるはずだと、ただひたすらに魔力を動かし続けた。

10分、20分・・

継続して”攻撃”していくが、全く変化する兆しを見せない。


(ちょっとやり方を変えてみるか。)



 ロディはそれまでやっていた、魔力を全方位からまんべんなく衝突させることをやめ、一方向から集中的に衝突させるようにした。


(一点突破だ。これでだめならまた別の方法を考える。)


 そして、魔力の集中攻撃からおよそ10分が経過したころ、


(おや、なんだかちょっと手応えが変わってきたような・・・)


 それまで当たっては弾かれ続けていた魔力だが、跳ね返りが弱くなったように感じる。

 堅い壁が度重なる魔力の衝突により薄く柔らかくなったかのようだ。



(もしかして、いけるのか!?)


 

すでに疲労困憊で限界も近かったが、ロディが気力を振り絞ってさらに魔力を当て続けると、


 ついにその時は訪れた。


 ”卵の殻”の一部にひびが入り、さらにその一部が欠けて穴が開いたのだ。


(やった!穴が開いた)


 なおも続けていくと、そこから大量の魔力がドッと空洞に流れ込んだ。

 すると、”卵”の中で魔力が暴れ、周りにあった”殻”をあっけないほど一瞬にして消し去ったのだった。

 内側からだと殻は脆かったようだ。


(殻が破れた!)


 ロディは壁を打ち破ったことを喜んだ。と同時に、とてつもなく披露したのを感じ、魔力制御をやめた。一心不乱に集中していたせいで、その集中が切れた時にどっと疲れが押し寄せた感じだ。

 ザゼンの姿勢もきついので、そのまま床にあおむけに転がった。


「やった。卵の殻のようなものを壊したぞ。・・・・で、やったのはいいけど、これで何か変わるのかな。」


 何か試そうにも体も頭も疲れて、何もできない。

 仰向けのままの姿勢でロディはしばらく動けなかった。


 しばらく休憩し、ようやく体力が少し戻る。

 ロディは体を起こし、まず魔力操作をしようとしたところで、自分の体の異変に気付く。


「あれ?魔力が減ってる。どうしてだ?」


 ロディの体の中にある魔力が減り続けていた。少しづつではあるが、確実に減っているのが分かる。疲れてギフトは使ってないし、身体強化も行ってない。

 でも体内の魔力は減っている。じゃあその魔力はどこに行ったのか。


「!体から魔力が出ている!」


 ロディの全身から魔力があふれるように出てきているのに気づいた。

 いままでロディは魔力を外に出すことが出来なかったが、体の表装付近から魔力がまるで抜けるように減っていき、その分、体の周りに魔力が纏わり付いて、それが濃くなっているのが分かる。

 ロディは体から魔力を出すことが出来るようになった、それはつまり、


「やったぞ。魔力が外に出ているということは、もしかして俺、”魔法”を覚えることが出来るようになったのか!」


 魔法は、魔法陣に自分の魔力を流し、魔法陣を体の中に取り込むことにより発動できるようになる。これまでのロディは魔力が外に出ておらず、魔法陣に魔力を流すことが出来なかったため、ごく一般的な魔法でも覚えることが出来なかった。

 しかし今のロディは魔力を体外に出せるようになっている。ロディの頭にあった魔力の”空白”を破壊し魔力を流し込んだことにより体の外に魔力が出てきた。おそらくこの魔力空白の部分は、体内の魔力を体外に放出するための何らかの機能がある部分だったのだろう。


「ついに、ついに、俺は魔法を覚えられるんだ。」


 ロディは喜んだ。が、本当に魔法を覚えられるのか、確認してみなければぬか喜びの可能性もある。

 早速魔法を覚えてみようとロディは魔法陣を描くため机に向かおうとした。

 しかし、めまいがして立ち上がれなかった。


「おかしい、体が変だ。どうしたんだ一体。」


 その理由はすぐに分かった。ロディの体の魔力がすごい勢いで減り続けているのだった。まるで栓の抜けた風呂の水のようにグングン減っている。そしてそれとともに体から魔力があふれ出ていた。

 普通の人の魔力は何もしなくても体外に少しずつ自然放出されているのだが、ロディのそれは桁違いに多いようだ。されに放出された魔力が体の周りを高濃度に覆い、その濃度はさらに高まり続けている。


「やばい!このままでは魔力が無くなってしまう。どうすれば・・・。」


 ロディは慌てて対策を考える。減りゆく魔力に焦りながらあーだこーだと魔力を制御した結果、さっきと逆のことをやればいいと気づいた。つまり、壁を壊した空白部分に魔力を流さなければいい。

 破壊した”空白”の部分に魔力を流さないようにしたところ、放出される魔力は徐々に減り、最後には完全に止まった。この”空白”だった部分が魔力の放出に関係することがこれで確定した。


 ロディはほっと一安心した。

 しかしこのまま気を抜くとまた魔力が大量に放出されてしまう。寝ている時はどうしても制御できない。

 そこでロディは魔力制御を駆使し、”空白”だったところの周りに魔力を集めて”魔力の壁”を作り出すことにした。

 そんなことできるのか?といわれても、やるしかない。

 ロディは元の空白地帯の周りに、魔力を集中して集め、それを動かないように、硬くなるようにイメージしてさらに魔力を集めた。

 やっつけ仕事ではあったが、ロディの試みは見事成功した。集めた魔力で壁を作ることに成功したのだ。この壁はロディが制御をやめてもそのまま保持することが出来た。

 これで魔力は普通の状態ならばこの”魔力壁”を越えられないため中に入ることはできない。そしてこの魔力壁はロディが操作しなければこのままの形が維持される。これで寝ている間でも魔力が漏れ出る心配はなくなった。


 と、ここまで対処できたところでロディはついに限界を迎えた。

 かれこれ5~6時間ほど連続で休みなく魔力操作を行って、さらに魔力は枯渇寸前の状態まで減ってしまったため、これ以上は冗談抜きで命に係わるかもしれない。


 ロディは残った気力を振り絞って、自分の体を何とかベッドまで運び、そのまま目を閉じて意識を手放したのだった。

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