第11話 ロディ、妹のギフトを知る

 ロディが14歳になった春の日。その日はエマの12歳の鑑定の儀の日でもある。


 当日、ロディはギルドに休暇をもらい、妹と一緒に教会に来ていた。


「別にお兄ちゃんが来てくれなくてもよかったのに。どうせ教会には入ることが出来ないんだし。」

「そんなことない。お前のはれの鑑定の儀だ。一緒に行くのが兄としての義務だ。」

「そんな義務ありませーん。まったくお兄ちゃんは過保護なんだから。」


 憎まれ口をたたくエマだったが、それでも兄が一緒に来てくれて嬉しそうだった。


 教会の前に来ると大勢の子供たちが集まっていた。保護者と思われる大人も十数人いて、我が子らしき子に声をかけている。


「じゃ、行ってくるね。」

「いいギフトもらえることを祈ってるよ。」

「ありがと。」


 ニコッと笑って手を振り教会に入っていくエマを見ていたロディは、ふと自分の鑑定の儀でもらったギフトを思い出していた。

 ロディのギフトは「修正」。レアギフトだが誰も使い方が分からず、いまだにロディはそのギフトを全く発現できていない。


(もしエマが同じように不明なギフトだったら・・。)


 いいギフトであることを期待しているが、あまり良すぎると自分と同じように苦しむことになる。普通のギフトであればいいと思わないでもないロディだった。


(それよりも、”魔法が使えない”なんてことは本当にダメだ。)


 魔法が使えないロディは、これまでも心無い中傷を少なからず受けてきた。魔法が使えないと知った人は、口では何も言わなくても蔑んだ目を向けることもしばしあった。


(エマをそんな気持ちにさせたくない。神様、お願いだからエマが魔法を使えるようにしてほしい。)


 ロディはこの2年の自分の苦痛を思い、そう切に願わずにはいられなかった。


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 およそ2時間後、教会から子供たちが出てきた。その子供に向かって我先にとスカウトたちが駆け出していく。

 ロディは教会の扉を見つめ、エマが出てくるのを今か今かと待つ。

 子供たちの一団の中にエマを見つけたロディは、すぐさまエマに近づこうとした。しかし人混みは激しく、しかも子供たちを押しのけるわけにもいかず、なかなか進めない。

 そのうちエマがロディに気づいて、笑顔で手を振った。エマは迫るスカウトや人混みを軽やかにスルスルと避けながら、すぐにロディの前に到着した。


「お兄ちゃん。待っててくれたんだね。」

「当たり前だろ。・・・それより、ギフトはどうだった?」

「うん、私のギフトはね、「狩人」だった」

「・・・え、「狩人」!?」

「そ。」


 「狩人」のギフトはそれほど珍しくはない。冒険者たちの中にも「狩人」のギフトの人は居るし、ギフト内のスキルの情報もすでにいろいろわかっている。人混みをすり抜けられるもの狩人の持つスキルの一つのようだ。

 特殊なギフトでは無いことで安心したロディだったが、ギフト自体には少し思うところがあった。


「しかし「狩人」か・・・。料理や裁縫関連のギフトがもらえるかと思ってたんだが。」

「そっちも出来なくはないけど、私は体を動かすことが好きだから「狩人」でよかったよ。」


 エマはロディに屈託のない笑顔を見せた。何か言いかけたロディだったが、その笑顔に何も言えなくなった。


「はぁ。お前、昔から木登り得意だったよな。だからかな。」


 昔から外で遊ぶのが好きで、気が付けば木に登っていることがしょっちゅうあった。もっと木登りを控えさせておけばよかったと思ったが、すでにギフトは授けられた。文句言っても無駄なのであきらめるしかない。


「それより、魔法は・・・どうだった?」


 ロディは少しためらいがちに聞いた。もしかして・・・という思いが頭をよぎる。

が、それは取り越し苦労だったようだ。エマはニッコリと、しかししっかりとロディの目を見ていった。


「大丈夫。魔法、使えたよ。心配してくれてありがとう、お兄ちゃん。」

「そうか。・・・・よかった。」


 ロディはほっと安心した。

 と同時に、周りの騒ぎに気づいて目を向けた。周りではギフトを得た子供たちにスカウトが群がっている。

そうだ、まだ大事なことがある。


「エマは、仕事はどうするつもりだ?」


 多才なエマならなんにでもなれそうだ。必要ならあのスカウトを捕まえて話をしてもいい。

 が、エマの答えはロディの想定外だった。


「私、冒険者になるわ。」

「え、冒険者!?」

「せっかく「狩人」をもらえたんだもの。それを一番生かせるのって冒険者だと思うわ。」


 ロディは、エマがまさか冒険者になるなんて言い出すとは思ってもいなかった。


「馬鹿。冒険者なんて命の危険があるんだ。できるなら安全な職業がいいに決まってる。」

「わかってるわ。でも私も外で動き回りたいし、冒険者が合ってると思うわ。」

「女性の冒険者は少ないし。」

「いないわけじゃないでしょ。」

「そりゃそうだけど、いろいろ狙われて心配だ。」

「お兄ちゃんも冒険者じゃない。私がやったっていいわよね。」

「・・・」


ロディは何とか説得しようとしたが、エマは聞かなかった。


「お兄ちゃん。私は冒険者になりたいの。私の気持ちを分かってほしい。」


 そう言われると、ロディは反論のしようがなかった。エマのやりたいことが冒険者だったら、そうじゃない職業につかせれば、それはエマの希望ではなく、エマが幸せだとは言えないだろう。

 いろいろと考えを巡らせたロディだったが、結局エマの気持ちを優先させることにした。


「わかったよ。冒険者になって、生活できるように頑張るんだ。ただし、あまり危険なことはしないでくれよ。」

「ありがとう、お兄ちゃん。うん、危険はできるだけ避けるわ。私もきちんと考えるから。」


(まったく、とんでもないお転婆だったんだな。でも仕方がない。本人がやりたい仕事につかせてあげないと。)


 本心ではエマに危険な職業についてほしくないロディだったが、エマの嬉しそうな顔を見ていると、”まあ、それでもいいか”と自分の心を納得させるしかない。


 そして二人は、教会前の喧騒を離れ、エマの冒険者登録のために冒険者ギルドに足を向けるのだった。

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