第9話 ロディ、最高の日になる
ロディは最初はユースフが何を言ってるかわからなかった。が、徐々に頭が追い付いてきて、彼の言葉ようやく理解できた。
「それは、つまり・・・・」
「私の職場に君を雇う。いいかね?」
「ほ、本当!?・・・ですか」
ユースフの言葉にロディは驚くと同時に、喜びと安堵を見せた。
目の前の重苦しかった扉が一気に開き、外から光が差し込んでくる、そんな気がした。ロディの頭の中に、今日起こった様々なことが頭の中を渦巻いて、何を話していいか整理がつかない。
ただユースフに
「ありがとう・・ござ、います。」
と返すのが精いっぱいだった。
「ちょっとまてよ、おじさん。なんでこんなやつを雇うんだよ!」
さっきまでの急展開に驚いていたダントンが我に返って叫んだ。
ユースフはおもむろに立ち上がり、ダントンに顔を向ける。ロディに向けていた者とは違う、厳しい視線と共に。
「君には関係ない話だ。君を雇うわけじゃない。」
「なんでだよ、こんな孤児で魔法も使えない、ゴミギフト持ちの奴を雇ってもろくなことにならねえぞ!」
ダントンはまるで襲い掛かるかのようにユースフの前に出ようとする。
しかしダントンは途中で後ろから数人の大人に抑えられた。
「バカ!何言ってるんだ。あの人に対して。」
「な、なんだよ、知らねーよあんな奴・・・」
「もう口を開くな!」
さすがの「大剛力」持ちも、ギフトを貰ったばかりの子供の体では大人数人がかりには敵うはずもない。ダントンは強制的に組み伏せられた。
「チクショウ、何だってんだよ!」
ダントンはそれでもバタバタともがいて抵抗していた。
それを見てユースフは彼に向かって言った。
「魔法無し、孤児。それはすでに聞いたよ。私は最初からここにいたからね。」
そしてユースフは再びロディに向き直り、
「もう君はギフトをもらった一人前の男なのだ。しっかり前を向きなさい。」
と促した。
ロディはその言葉にうなずき、と同時に自分の姿に気づいてあわてて涙をぬぐう。
ユースフはロディが落ち着くのを待って、そして言った。
「ロディ。君は妹の為に仕事に就くと言う。妹の幸せの為にお金を稼ぐと言う。それは「自分の為でなく人の為に行動する」ということだ。とても立派だ。私が君を雇うことを決めたのは、その言葉と気持ちが本気だと感じたからだ。孤児であろうが魔法無しであろうが関係ない。」
「あ、ありがとう、ございます。」
ロディは、自分の言葉を真剣に受け止めてそして応えてくれたユースフに、何の飾りもない感謝の言葉が自然に出てきた。
ロディの姿を見て、ユースフはフッと小さくつぶやく。
「いい兄妹だな。私も・・・」
そのつぶやきは小さすぎてだれにも聞こえなかった。
ロディは職を得られる喜びで舞い上がっていた。が、ふと疑問に気づいた。そういえば大事なことを聞いてない・・。
「あの、ユースフさん」
「なんだね?」
「僕は、どんな仕事をすれば・・。というか、ユースフさんは何の仕事を?」
ユースフは、一瞬怪訝そうな顔をして、すぐに笑って答えた。
「これはすまん。戸惑わせてしまったな。私の名前はユースフ・ミクローシュ。この街の冒険者ギルドのギルドマスターをやっている。」
「・・・え?・・・ギルド、マスター??」
ロディは驚き目を見張る。つまりユースフさんはこの街の冒険者ギルドのトップということ。
「そう、ギルド長だ。最初に教えなかったのは、私の地位とか職業とか関係なく君の言葉を聞きたかったから伏せていたんだよ。すまなかったね。」
ギルド長ともなれば街の有力者の一人だ。しかもかなり権力を持つ。それがダントンが取り押さえられた理由だった。ダントンは、有力ではあるがあくまで商人の息子なので、個人の地位や影響力などではかなうはずもない。
「ということで君はギルド職員になるんだ。ああ、最初は見習いだがね。」
「!見習いでも構いません。」
ロディは叫ぶように言った。
ギルド職員は世間一般で言うところの優良職だ。
この国には「冒険者ギルド」以外にも「商人ギルド」「薬剤師ギルド」「鍛冶師ギルド」などあるのだが、いずれのギルドも盛況であり、そのため職員の給料も一般の職業に比べ高レベルである。当然人気は高く、職員就職の競争率はかなりのものだ。
高収入の為その分仕事も厳しいが、ロディにとっては厳しかろうが安定した収入が見込めるならば望むところだった。
ユースフはさらに続ける。
「それに君のギフトは『修正』だと聞いた。これもおそらく使えると思う。『修正』ギフトというのは文書仕事に最適なんじゃないかと私は期待している。」
ユースフ曰く、冒険者ギルドは護衛や討伐、採集依頼などの管理などを行うことから、当然書類仕事が多い。その書類はギルド内の資料だけではなく、中には王都のお偉いさんまで目を通す資料を作成することもあるそうだ。
「君のギフトを成長させれば、書類などの間違いを見つけて正す、そういったことが出来るのではないかと予想している。重要な書類に間違いなどあると、のちのち大変のことになるかもしれないからね。ま、たとえギフトが予想通りでなくても、君はギルドに欠かすことのできない人材になるんじゃないかな。さっきの君の言葉は、そう期待させるものがあった。」
ロディはユースフの期待の言葉に心が熱くなった。
彼は自分の未知の『修正』ギフトの可能性まで言及してくれた。みんな、”分からない””使えない””クズギフト”と言っていたのに。
自分のギフトを肯定してくれた人に初めて出会えたことは大きな喜びだった。自分には大いに可能性がある、そう信じることが出来る最高の気分だ。
「ロディ。ギルド職員になってくれるかね?」
ユースフが改めてロディに問う。ロディの答えは考えるまでもなかった。ロディは勢いよく頭を下げて言った。
「はい。宜しくお願いします。」
ロディの目はさっきのものとは違う涙で潤んでいた。
ロディにとって今日という日は、一日で「人生で一番最悪」と「人生で一番最高」の気分を乱高下して味わった、生涯絶対に忘れられない日となった。
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