第19話 ギンはお留守番

男性とモトクマとギンの3人は、ユメノ鉄道の緑電車に乗った。


「ついて来ないでよ、ギン。」


モトクマが面倒くさそうに言った。


「いいじゃねーか。もう1人仮想空間に入るくらい。」


「あんまり人数入ると、仮想空間の処理速度が落ちるから、控えてほしいんですけど。」


「はぁ…。そうだったっけか?俺が本職じゃないからって、適当な事言ってないか?」


「ホッホッホ。ほんとじゃよ。」


大ベテランのコイジイが、笑いながら通り過ぎてゆき、近くのボックスシートに腰を下ろした。


「…コイジイが言うなら…本当か。わかったよ。じゃあ俺は、椅子から見てるよ。お前達が戻ってきたら、散々ダメ出ししてやる。」


ギンは座席にどかっと座り、にやっと意地悪そうに笑った。


「あの、ギンさん。ありがとうございます。私達のために色々気にかけて下さって。」


男性はギンにお礼を言った。


「別に、お兄さんのためじゃないっすよ。こいつをからかうのが楽しいだけっす。」


ギンは目を合わせずに答えた。


「そうですか…。あっ!では行ってきます。」


緑電車がゆっくりと動き始めた。


「モトクマ、昔話の時間だ。」


「了解兄ちゃん。」


モトクマは窓際に、持っていた石をセッティングした。


「いざ!秋田の昔話、はり木石の世界へー!」


男性とモトクマの体が、窓ガラスへと吸い込まれていく。

さっきまでの騒がしさは無くなり、ボックスシートにはギンだけが残された。

ガタンゴトンという緑電車の音が車内に響き渡る。


「友達が突然遠くに行ったみたいで寂しいかの?」


コイジイがギンに声をかけた。


「まさかwあいつが遠くに行く事なんか、俺は前から知ってるっつうの。お別れ会なんか先週済ませたわw」


ギンはコイジイに笑って返した。


「逆に、人間界に旅立ったはずのあいつが、まだこんな所にいるのかが問題なんだよ。しかもちょっと楽しそうに。」


ギンの眉間にしわが増えてきた。


「モトクマが連れてんの、あれ、人間だろどうせ。」


「ほう。驚いたわい。ギンは一般客なのにするどいのう。」


「友達何年やってると思ってるんだよ。ふざけやがって。人間をペットにすんのか?ペットにされた恨みをここで晴らそうってのか?」


ギンは貧乏ゆすりをし始めた。


「ギンは、モトクマが人間に復讐すると思うのか?」


コイジイが、イライラしているギンの背中に、そっと手を置いた。

手の暖かさが、背中から優しく伝わってくる。


「思わねぇよ……。モトクマはいいやつだ。」


ギンの耳が少し垂れた。


「分かんねー。だってこのままいったらあの兄ちゃんは、モトクマに支配されるぞ?この世界で死にかけの人間に取り憑くって事は、そう言う事だ。あいつも分かってるはずなんだけどな…。」


「でもモトクマは、あの人間を人里に返す気らしいぞ?」


「どうやってだよ。」


「さあ、わしにも破天荒の考えている事は分からん。とりあえず見守ってあげようとわしは思っているよ。」


コイジイはギンの背中をさするのをやめて自分の座席に戻り、窓ガラスの中へと入って行った。


「お前は優しいから、大事な事は言ってくれないんだよなー。」


そう言ってギンは、男性とモトクマが吸い込まれた窓ガラスを見つめた。

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