第13話 その夜に
臨の家に泊まるのは初めてではないが、こいつの家には客用の布団、などというものが置いてない。
無駄に大きな臨のベッドで一緒に寝るのは正直嫌なのだが、だからといって床で寝るのも嫌なので、僕は臨と並んで寝ることになった。
臨にジャージを借り、リモを挟んでベッドに横たわる。
常夜灯が付いた薄暗い室内。
僕は背中にリモの寝息を感じ、何度目かの寝返りを打った。
眠れない。
今日見た幽霊の姿が、脳裏にこびりついている。
この場で取り殺す、と言った顔は化け物そのものだった。
幽霊なんていないと思っていたのに。
幽霊はいたし妖怪もいるし、危うく幽霊に殺されかけた。
僕には戦う力はない。
というか、戦うのは苦手だ。
なのに化け物を探し出そうなんて、これは臨がいないと成立しないものだ。
臨がいるから僕は化け物探しができる。臨がいるから僕は化け物に襲われることはそうそうないだろう。
僕だけなら何もできはしないんだよな。
臨は強い力を持っている。
戦うことができるし、時に冷静な判断ができる。
今日のあの、幽霊に対する容赦のない仕打ち。
背後から斬るって、卑怯じゃね?
とか思うけれど、幽霊はそもそもこの世ならざる者だしな。
幽霊の望みは斬られることだったのだから、臨の判断は正しかったと思う。
それでも臨に言われた言葉は深く僕に突き刺さった。
『残された人は幸せだと、紫音は思うの?』
死んだ人が何を思っていたのか、生者は知りたいと思っている。
僕はたくさんの記憶を見てきたからそう思える。
けれど。
実際死者の言葉を生者が聞いたとして、何か変わるだろうか?
更なる後悔が生まれるかもしれない。
更なる傷を負うかもしれない。
それを思うと、確かにエゴなのかもしれない。
残された側が死者が何を思っていたのか知りたいと思っても、それが幸せな内容だとは限らないしな……
だから、臨があの幽霊から何も聞かずに斬ったのは正しかったのだろう。
僕が記憶を消した人たち。
彼らは辛い記憶を忘れて、幸せに暮らしていることだろう。
妊娠した彼女や奥さんを亡くした人とかいたっけ。
覚えてないんだよな。
あの幽霊はあれで幸せなんだろうし、残された家族はもう吹っ切れて新しい生活を始めているかもしれない。
そう思うと僕ができることなんてないんだよな。
記憶を消す前にその人が何を思って来たのかとか、何を感じて記憶を消したいと思っているのかなんて聞いたことはなかった。
そうしたら僕はこの、記憶を消す仕事を続けられていないだろう。
吸い上げて消す記憶は他人の記憶だから忘れられるけど、直に僕が話を聞いてしまったらそれは僕の記憶として僕の中に残ってしまうから、だから僕は無意識に誰からも話を聞こうとしてこなかったんだろうな。
そしてこれからもそれは変わらないだろう。
「う、ん……もう食べられないよぉ……」
リモがむにゃむにゃと寝言を言い手で俺の背中をぐいぐいと押してくる。
僕は振り返り、寝ぼけるリモの頭を撫でた。
猫を喰う化け物の話から狸の妖怪を拾い、幽霊にまで出会うとは。
僕の日常はどうなってるんだ?
このわけわかんねえ事件が終わったら、リモは自分の住んでいた所に帰るんだろうか?
まあ、いつまでも飼ってるわけにもいかねえしな。
僕はリモを抱きしめてぎゅっと、目を閉じた。
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