第168話 一人、火を通せば大体イケる(持論)。


 サイラスの助言通りに石を押した先の隠し部屋で私達を待ち受けていたのは、コカトリスとかいう雄鶏とヘビとを合わせたような姿をした魔物だった。ゲームだとちょくちょく見る有名どころだったが、実物ははっきり言ってかなり気持ち悪い。しばらくニワトリを食べたくなくなる見た目。


 厄介なのはニワトリ特有の素早さと、瞳の持つ石化魔法だった……んだけど。石化魔法は生物にしか効かないらしくて、サイラスの「〝おや、懐かしい顔ですね。金太郎くんに仕留めさせて下さい。絶命直後から石化が始まるので、目、心臓、風切り羽根、血液、蹴爪、尾の蛇の牙をすぐに回収して下さい〟」との助言をもとに、首を一捻りしての一撃討伐。


 愛らしいビーズの瞳を持つ羊毛フェルトゴーレムには、とことん無力だった。石化が始まったら大慌てで言われた部位を切除したけど、心臓はまだ動いていたから、握り潰さないよう苦戦しているうちに石化してしまった。


 それ以外は何とか入手。特に血液は忠太が動脈をスパッとやって小瓶に突っ込んだので、大量に取れた。使い道としては石化の解除薬とかに重宝がられるそうだ。ただなんというか、毎回のことながらうちの連中は思いきりが良すぎるな。


 あと石化する前に取り出した目は金色に輝く琥珀っぽい塊になって、羽根はレジンを施したみたいにパリッと乾いた。半分石化したみたいな感じ。手触りは石膏像の表面。羽根の形はアクセサリーのパーツとしてはかなり優秀なので、いくらあっても困らない。


 蹴爪と牙は刺さると危ない(毒有り)ので、百均のタッパーに放り込んだ。凶悪なことに無味無臭。これは大型の魔獣を退治する際に餌に仕掛けたり、弓の鏃に塗って使うのだとかで各ギルドで重宝されるらしい。


「サイラスのおかげで一体倒しただけなのにかなり新素材が採れたな。これのレア度って中級くらいか? もしそうならスキルを使って複製したら何度も討伐しないで済むし、惜しみなく使えるんだけど」


「〝今回採取したものはどれもレア度で言うと中級ですね。心臓は上級だったのですが。確かエリクサーの材料の一つに数えられているのだとか〟」


「ほう。では次があれば是非取りたいところですね。他の部位を複製出来るようになったのですから、次回は心臓だけ狙えば良いわけですし」


「だな。もっと湧いてくれないもんかなぁ、コカトリス」


 サイラスの発言に俄然さっきの気持ち悪いニワトリが魅力的な獲物に思えてきた。金太郎までもが周囲にもう一羽くらいいないものかとキョロキョロしている。現金なのは製作者の私に似たんだろう。そのまま小さな身体で、カンテラの明かりが届かない部屋の隅へと歩いて行った――……が、三分もしないうちに駆け戻ってきた。しかも金色の卵を頭上に掲げて。


 誇らしげにこちらに卵を献上してくれる金太郎の前で膝をつき、その手から卵を受け取る。ずしりとした金色の卵はニワトリのものとさほど変わらない。振ってみたら通常の生卵と同じく重心が移動するのを感じられた。紛うことなき生卵だ。


「〝これは珍しい。コカトリスの卵です〟」


「親が死んでも卵は石化しないのですね」


「〝恐らく胎内から排出された時点で、結びついていた命の理の縛りから抜けるのでしょう〟」


「成程。魔物といえども生物ですからそうなるのも道理なのでしょうか」


「〝ええ……我々精霊には分かりません。しかし伝承によれば、コカトリスの卵はヒキガエルが温めて孵すとあります〟」


「待って下さい。そもそもカエルに鳥類の卵を孵す体温はありませんよ?」


「〝不思議ですね。だとすればコカトリスの本体は尾の蛇の方だということに……〟」


 精霊同士で肉体のある命に対して思うところがあるのだろうか。方や知識の吸収に定評のあるハツカネズミ。方や知恵の果実を人に与えたとされる蛇。どっちもただの人間の私より圧倒的な智者である。


 野生動物同士だったらまず対面した瞬間片方が胃袋に入っちゃう構図ではあるものの、難しそうな話になりそうな気配を察知。流れをぶった斬るために「見るからに怪しい卵だけど、どっから取ってきたんだ金太郎」と尋ねれば、柔らかゴーレムはついて来いとばかりに身を翻す。


 何に使えるかは分からないけど興味があるので、スマホを持った私を背に庇いながら、先をカンテラを手にした忠太が進む。光がはね返って周囲を照らす距離まで壁に近付いたところで、そこにちょうどコカトリスが通れる程度の亀裂が入っているのを発見。


 金太郎がそこに潜り込んで再び現れると、その手にはさっきと同じ金色の卵が掴まれていた。手渡されて、受け取って。それを三回くり返し、結局クリスマスオーナメントみたいな金色の卵は、合計四個になった。流石に卵のままでは魔宝飾具に加工するのは難しい。


 珍しい鳥(魔物)が産んだ新鮮な生卵が四個。前世と同じで色の違う卵は栄養価とか高いんだろうか。あと純粋に味が気になる。親があれでも卵は若干色がファンキーなだけで、意外と中身は普通かもしれない。


 仮に割ってみて中身がベトナム料理の雛になりかけのやつみたいだったら埋める。でももしもまだ中身が普通の卵であるならば……せっかく四個もあるのだ。スキルに体調不良を軽減するやつも微微ながらあるし……うん。


「なぁ忠太、もうそろそろ昼だよな」


「そうですよ。外敵もいませんし、お腹が空いたのならスマホで昼食を購入しますか?」


「いや……腹が減ったのもそうなんだけど、ちょっとこの卵の味が気になってて。今ここで卵焼きにしてみても良いか?」

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