◆第五章◆

第70話 一人と一匹、世界を越えてバズる。

 原点回帰のために訪れた森で、忠太達と見た星輪祭から早三週間。つまり新年になってからすでに二十一日目。


 暦上の一月といえばただでさえ雪深い季節。加えて一般的な学校と違って、進級制度があるわけでもない学園にわざわざ通ってくる物好きは少なく、敷地内に僅かに残っている学生達は家に居場所がないか、よほど研究熱心な学生だけだ。


 最悪二月に登校して来たら良いという非常におおらかな校風も手伝ってか、ラーナとサーラもまだ戻ってきていない。まぁ、あの二人は単に家業が忙しいだけかもしれないけど。


 一応後者の研究熱心な方に属している私達はといえば、連日学園の図書館で気になる本を借りて、自室で小さい神様達の棲むアクアリウムの前で忠太と神様達の話を聞いて読んだり、森の廃墟でハンモックに揺られながらのんびり読んだり。


 面白い発見としては私は自習学習に向いた性格だったらしく、突然真理の扉を開いちゃったのかと思うくらいにスルスルと、懐中時計型ピルケースの改良方法を思い付けてしまった。試してみたら結構良い感じに出来たので、双子が戻ってきたら同じ魔宝飾具師の卵として意見を聞こうと思っている。


 そんな感じで新年早々順風満帆が過ぎて怖い……なんてことも特になく。今日も転移スキルをしようして、すでに日課になりつつある森の廃墟で適当に朝食をとっていた。食後はアプリの自店舗をチェックして、足りなくなっている商品の補充や注文の確認をしていたんだけど――。


「パワーストーンのアクセサリージャンル、サイト内検索一位? アクセサリー系の商品棚がほとんどSOLD OUTで入荷待ち通知になってる……ってこの商品だけ百近いぞ。何だこの注文数」


 サイトから届いていた通知内容に驚いてハンモックに座り直すと、忠太と金太郎が膝と肩によじ登ってきてスマホの画面を覗き込む。今回一番売れているのは、マクラメ編みで作った魔石のネックレス。最近は石を覆わず大きく見せるよう、縁をかがるみたいに編むのが流行りらしいというので取り入れたやつ。


 一個のお値段は【むこうにない いしの きしょうかち よんせんえん つけましょう】という商売上手なハツカネズミの口車に乗って、やや強気なお値段。それにもかかわらず飛ぶように売れている事実に冷や汗が出る。


 ちなみに使用したマクラメコードの色は金太郎が選んでくれた。意外なことにこのゴーレムは色彩感覚が良いのだ。しかし自分的にもなかなか気に入ってはいたものの、こんなに反響があるとは思っていなかった商品だった。


 一旦アプリを中断してメッセージ機能を呼び出し忠太の方へと向けると、肩から降りてきた忠太がフリック入力を始める。


【ほう これが いわゆる ばずったという げんしょうですか】


「バズってるっていうか、純粋にサイトのシステムがバグってるんじゃないか?」


【いえ さっきの かきこみ みてみましょう】


 忠太に促され再びアプリを立ち上げて覗き込んだ商品購入者の感想欄には、買った人の名前は違えどもほぼ同じ内容の文面が書き込まれていた。どれもかなりな熱量だけど、そのうちの一件を拾い上げて読み上げる。


「えーと〝調べてみたけど何て名前のパワーストーンか分からないので、ママ友へのプレゼント用にリピートします。これ握らせたら生後四ヶ月の娘の夜泣きが嘘みたいになくなった。赤ちゃんの夜泣きで寝不足に困ってるお母さんは、騙されたと思って買ってみて!〟だってさ」


 スマホ画面から視線を上げて忠太と金太郎を交互に窺うと、金太郎は肩をすくめて〝わからん〟ポーズ。忠太はピンク色の鼻をヒクヒクさせながらヒゲを弄り、一瞬考える素振りを見せてからまたメッセージ機能を呼び出した。


【もしかすると あれですね こちらだと ちからが よわすぎて つかえなかった いちぶのいし むこうだと ききめある】


 おぉ……流石はうちの頭脳担当。忠太の言葉に数日前に学園の自習室で使った薄荷色の石を思い出す。何となく気に入ったのと、触ってると気分が凪いだ。別に体調が悪かったとか虫の居所が悪かったとかでもないのに、スーッと。忠太に鑑定してもらったら微弱すぎるものの、沈静の効果があると教えてくれたけど……。


「いや、それにしたって何でそんな極端なことになるんだろ?」


【かんがえるに まりょくに たいせい ないからでは でもとりあえず こめんとだして つうちとめないと どんどん きてますよ】


 冷静な指摘にアプリを立ち上げたらすでに通知が二百に迫っていたので、慌てて定型文のお礼と一時予約の締切をする旨をしたため、有能なハツカネズミのスケジュール管理の下、予約された商品の発送を第五期まで分けて行うと締めくくった。

 

 忠太と金太郎に文面のチェックを頼んでお許しを得たら、早々に寮の自室に転移して、注文品分の材料を百均サイトや手芸屋のサイトで片っ端から買い漁った。こうなったらやるべきことは――。


「ひとまず二、三個だけ残しといたあの石を複製しまくるから、注文の入ってる百八七個を片付けるぞ。忠太はマクラメ編みを手伝ってくれ。デザインの種類を増やそう。金太郎はセンスを信じてラッピングを頼む。このお祭り騒ぎの間に稼げるだけ稼ぐぞ野郎共!!」


 新年早々のビジネスチャンスをものにすべく、私達の心は一つになった。

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