第55話 一人と一匹、作って遊ぼ。

 昼食後に渡り廊下で起こった騒ぎから三日。金持ち学校の生徒達と無事にマッチングが出来たのか、まだやや浮き足立った生徒達がいるものの、ひとまず学園に平和な日常が戻った。


 一部自慢気に専属契約を声高に話している連中もいたけど、そんなことはどうでもいい。大事なのは今日もたくさん学び(詰め込み)楽しい放課後がやってきたということだ。


「今日の最後の講義面白かったなぁ。あの二人と一緒のやつにして良かったよ。魔石を削ったあとの粉で絵を描く人とかいるんだな」


【あれは もうてん でしたね いしにまりょく あるなら こなにも ある】


「それだよな。あー……クソ、今までゴミとして捨ててたのが勿体ない。でも今更後悔したって仕方ないし、早速あの方法で何か作ってみよう。話を聞きたてで凄い物が出来そうな気がする」


 私達のやる気スイッチを押したのは、ついさっきまで受けていた少々変わった魔石の利用法に言及した講義だ。


 たぶん前世でいうところの岩絵の具のようなものなんだろうけど、今もはっきりと講堂の中心で説明に使われた絵の鮮やかな色彩が目に焼き付いている。モチーフは花鳥風月。ラメ入りの赤や青を惜しげもなく散りばめた絵は、さながら宝石の絵画だった。あれを使わない手はない。


 逸る気持ちが歩く速度に現れる。目指すは自習室。この学園の自習室は少し面白くて、個別の作業室になっている。魔宝飾を作る時は暴発事故などもあるらしいので、各部屋ごとに厳重に魔法壁が施されていて、完全防音、他の部屋への延焼キャンセル機能つき。


 例えるなら一人カラオケボックス。魔宝飾を暴発させた生徒がどうなるのかさえ考えなければ割と快適な空間だ。使用届けさえ出せば道具や品質の低い石は使い放題。寮の自室でも出来ないことはないけど、品質が低い石でもマルカの町では見たことがない物も多い。


 当然複製しまくって自室にも持って帰るけど、毎日何かしら新しい物が補充されているため、最近だと放課後はもっぱらここに入り浸っていた。ちなみに補充しているのは採取実習を専行している学園の生徒で、自分達が使わない雑魚石を置いていく代わりに、少額のお金を学園側から受け取るシステムだ。


 ――まぁ、それはさておき。


【さて それじゃあ まずはなにを つくりますか】


「取りあえず新しい護符かな。小さいやつならレティーとレベッカに送る手紙に入れられるだろ」


 ということで、興奮冷めやらぬまま棚から適当に良さそうな青、赤、黄、緑と、ひとまず四色の魔石を取り、素材持ち出し用に置かれている籠に詰めていく。私が選んだ石を、忠太が魔力量が多そうな物だけ残るよう選り分けるのも忘れない。


 石の形だと魔力を安定させるのに四苦八苦するものの、細石さざれいしの状態から一手間加えて、すり鉢で細かく均一に潰した物に魔力を馴染ませる方が遥かに楽だ。


 元々魔力を持って生まれたわけじゃないから〝魔力を流す〟という感覚すら知らないし、マクラーレン先生に聞いても『魔力が膨大すぎて絞れないのね。仕方がないことよ。焦らず取り組めばいいわ。誰でも最初から上手くはいかないもの』とか優しい勘違いをされる始末。


 双子に教わって最近ようやくぼやーっと理解し始めた程度なので、楽が出来るところはしたい。そのうえ私はルーターを使うからすり鉢を使う手間もないし、この方法は良いことづくめだ。ウキウキと自習室の貸し出し名簿に名前を記入して作業に移った。


 自習室のドアの内鍵をかけたらまずはスマホで百均のサイトに飛び、レジンのデコレーションパーツとミール皿を購入(失敗した時ように多めに)。


 鞄に入れて持ち運んでいる、必要最低限のレジンキットの入ったポーチと、ルーターのポーチを取り出して机の上に広げたら、デザインについてしばし忠太と打ち合わせ。大まかに朝焼け、夕焼け、夜空といったイメージを膨らませて、三種類のデザインを考えた。


「さてどうしようか。先に型の底にそれっぽい柄入のマスキングテープ貼る? それか透明なレジンに直接魔石の粉を溶いていってみるか?」


【とうめいな れじんに いろつきの れじんかさねて そのさかいめに ませきのこなで もようを かくのは どうでしょう】


「あぁ、光が当たったら浮き上がるようにマーブル模様っぽくするってことか。でもホログラフ入れるのとそんなに変わるかなぁ」


【こなのりょうで のうたん つけられそう】


「成程。それなら差別化もはかれそうだな。やってみるか」


 忠太の発言を参考に色粉を作るべく持ってきた魔石を取り出し、ルーターを使って普段ならそこを狙う核の部分まで削っていく。削り始めの外側の色は薄いけど、中心の核に近付くにつれて飛び散る魔石の粉色が濃くなる。


 私が削って飛び散った粉を、鼻先を解した綿球で覆った忠太が、消カスを集める卓上掃除機(ミニカー型)を押して集めていく。シル○ニア人形が耕運機を押してるみたいな絵面でとても可愛い。


 魔石粉がそれなりの量が貯まったところでルーターを止め、忠太が集めてくれた粉を百均のミニ漏斗ろうとで小瓶に移して……と、これで素材が揃った。


「じゃあまずは朝焼けから作るか。で、ミール皿はこの縁がフリルっぽいのにしよう。えーっと……色粉は赤と黄にして、ピンクのレジンと赤のレジンと黄のレジンを交互に重ねていくか」


【れてぃーのですね】


「そうそう。レティーはピンク色好きだろ。朝焼けって意外とピンクなんだよな」


【ふしぎですよねぇ】


 そんなことを話しながら作業を開始した二時間後、私と忠太は自習室で小規模な爆発事件を起こして。私達は無傷であったものの、駆けつけた教師と四部屋隣の部屋でアイテムを作っていた双子にこってりと絞られ。


 一部屋煤だらけにした賠償金は、結構……。翌日生徒指導室に呼び出されたのだけど――そこにいたのは苦笑を浮かべたレベッカと、同じく微苦笑を浮かべたウィンザー様だった。

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