◆第四章◆

第51話 一人と一匹、レッツ・ダンジョン①

 王都の魔宝飾具師の卵達が通う学園に中途入学してから一ヶ月。


 こちらからレティーに送った手紙は十五通になり、レティーからの返事は二十六通届いている。明らかに返事が多い。ほぼ一日一枚来てる計算になる。今朝も起き抜けから次に送る手紙の文面を考えて確認した天気は良かったんだけど、生憎と今は空が見える場所にいないから分からない。


『マリさん……貴女の場合は実技の方を伸ばしつつ、併用しながら学んだ方が実になる気がするわ。どうかしら、わたくしの講義を熱心に受講してくれるのは嬉しいけれど、一度座学だけでなく実技の方に出席してみない?』


 苦手なことにコツコツ真面目に取り組んだ結果、初日に優しく諭してくれた老女史、マクラーレン先生にそう呼び止められて、そんな提案をされたのが三日前。


 約束通り校内で私と忠太を見かけたら声をかけてくれ、図書室で会うたび勉強を手伝ってくれた双子にも申し訳ないが、座学とは前世から相性が悪かった。講義後に毎回質問していたのだからまぁ……そろそろ先生に目をつけられるのではないかとは、薄々感じていたからな。


 なので一も二もなく了承したところ、二日後には学園の敷地内にある地下の転移魔法陣から、鍛練用のダンジョンに向かう実技学科に入れてもらうことが出来た。そこまでは本当に非常にスムーズに進んでいたのだ。


 しかし肝心の今日、実技学科生の洗礼嫌がらせに合い、探索する上で必須であるはずのグループ編成からハブられてしまった。いわく〝御大層な石を持っているなら、たとえ使い魔がネズミ一匹でも平気だろ〟と。サーラとラーナの話を聞いても感じたことだが、嫉妬力だけは一人前だ。疚しいが服を着て歩いてる。


 転移魔法はランダムに出発地点を用意するようで、実技担当の教諭の目を盗んでダンジョン内に置き去りにされれば、自力でダンジョン踏破の証であり、転移アイテムでもある各階のコアを探して手に入れないと、最初の魔法陣には戻れない。


 作りは一般的なドラ◯エのダンジョンってところか。どこを見ても同じようなトーチカと石壁。一応潜る前にマッピングのやり方の説明を受けたけど、チートなスマホのおかげでメモを取る必要はなさそうなのが救いだ。


 それにしてもこのシステム穴だらけだろ。学生とは言いつつ年齢だけなら成人してる奴も多いんだから、こういう犯罪行為に手を出す馬鹿がいることも考えてくれよ――と、色々文句は山積みなわけだが。


「マリ、木偶人形の沈黙を確認しました。時間がありません。先を急ぎましょう」


 穏やかで優しくすらある語り口なのによくよく聞くと辛辣な発言をした相手は、元生徒の鍛練用に造られたゴーレムを足蹴にして私の前に手を差し伸べた。今日は私がさっき貸したローブのフードを目深にかぶっている。奥ゆかしいというか、羞恥心が高すぎるなうちの相棒は。


 その色素の薄い手に自分の健康的に日焼けした手を重ねると、まるで壊れ物に触れるみたいに握り返された。これがついさっき【だんじょん とうはに こあ いらない じょうしきがいの さわぎおこせば がくえんがわ きづきます】と私に提案した生き物とは思えない。精霊って皆破壊工作大好きか? とは言えそういう振り切り方は私も嫌いじゃないけど。


 ダンジョンの壁ごと小さな神様に吹き飛ばされたゴーレムが、ちょっとだけ気の毒になってくる。あくまでちょっとだけだが。肌身離さず持ち歩いていたピルケースの小さい神様達、今回も良い仕事してますねぇ。


「忠太、またお前の大事なポイントを使わせちゃってごめんな」


「いいえ、わたしのポイントは毎回わたしが使いたいように使っています。マリが謝るようなことなど何もありません」


「あー……うん、そっか。ありがとな」


「わたしこそ。やりたいことをしただけなのにお礼を言ってもらって、ありがとうございます」


 口許だけしか見えないけど笑ったみたいだ。こんな時だというのに、繋いだ手の温度で冷静になる自分がいる。思うよりも不安だったんだろうか。忠太はこれを見越して人の姿になってくれたのかもしれない。


 それと嫉妬される原因となった駄神の入学祝いだけど、忠太いわくブローチその物に魔力が有り余っているらしく、現状の威力程度なら小さい神様達に力を供給して百発以上使えるとか。ダンジョン踏破(物理)である。


「同胞達もヤル気が漲ってますから、マリは安心して壁をぶち破って下さい。危機管理の甘い学園側と、この状況にマリを追いやった卑しい連中に思い知らせてやりましょうね」


 イッちゃってる忠太の言葉に呼応するように、ピルケースがほんのりと熱を帯びる。彫ってある精霊文字は発火に関するものだったけど、この威力を見るに爆破と言っても過言ではないと思う。一級発破師達が宿るピルケース、プライスレス(当然ながら非売品)。


 相棒にそう言われてしまっては仕方ない。それとブローチを片手の上に置き、忠太に手を重ねるように促す。簡単な打ち合わせの後、壁に向かって唱えるのは、前世の国で一番有名な滅びの呪文。


 「「◯゛ルス!!!」」


 原作のアニメファンがこの場面を見たら絶対怒るなと思いつつ、元ネタは知らないだろうけどノリの良い一級発破師達の手(念?)によって、ダンジョンの壁は無惨に爆裂した。さながら古い特撮のウエハース製ビル。まるでゴミのようだって、こういう時に言いたくなるのか。

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