第二章「異世界実習」

第11話「生存率と辛い現実」


「27小隊が戻ったぞ~!!」


「お前らは全員無事か、良かった……」


 任務から戻ると寮がザワザワしていた。戻るのが一番遅かったのが俺達だったと他の小隊員から聞かされたが更に驚いたのはこの後だった。


「どういう意味だ?」


「08小隊と14小隊は合わせて三人死んだ……」


「え?」


 24小隊の山本の言葉に俺達は言葉を失った。最終的に死者は五名、重傷者二十名以上に怪我人多数、俺はこの異世界研修制度の最終生存率50%という数字を思い出していた。教官の生きて作業を終えるだけで良いという言葉の本当の意味を理解した。


「さぁ~て私の出番ね回復回復っと……あっ、皆おかえり……四人は怪我は無い?」


 そして久しぶりに見るメルの顔に安心し俺達は座り込んでしまった。




 王都に帰還してから数日後に俺達は今回の遠征仲間達の合同葬儀に出席した。久しぶりに袖を通した学校の制服は少し小さく窮屈に感じた。


「ここに勇敢にも散った五名に感謝と哀悼を……」


 グレスタード王国の葬儀は簡素でリックが言うには欧米風とも違い簡略化されているそうだ。恐らく過去の戦争で何度もしていたから短くなったのだろう。だがそれより棺の前で言葉を述べている人物が国王陛下だというから驚いた。


「我が国で戦い果てた若い君達の骨は必ず祖国の土に戻すと約束する、だから今は安らかに眠って欲しい……」


 俺たち程度の人間に国のトップが出て来るなんて思ってなかった。それだけで俺達を送り込んだ国より好感は持てる。そんな益体の無い事を考えてしまった。


「重傷者は全て七愁時因しっしゅうじいん島に送られるそうだ」


「そうか……あの島か」


 リックの言葉に寂しくなると思った。アズも複雑な顔をしていたが、その二日後に全員が完治して送り返されて来て俺達は更に驚かされた。


「何で、あんな重傷だったのに……」


「腕が食いちぎられてた奴や両足無い奴もいたよな?」


 リックの言う通り重傷者の中には四肢の一部を欠損していた者も多く研修生の四分の一が動けない状態のまま島に運ばれたし俺達もそれを見送っていた。


「だって勇者様がいるんだから当然よ、ね?」


「確かに、先生ならその程度は……」


 最近は当たり前のように俺達と一緒に食事をしているメルがソウガに同意を求めるように話を振っていたが、どういう意味だ?


「勇者カイリの伝説の一つで『勇者三技』ってのが有って、その中の一つに全ての怪我や病気を一瞬で治す勇者専用の術が有るみたいなのよ」


「なんだそれ?」


 そこで思い出したのは家を追い出された母だ。その力なら母の難病も治るかもしれない。そういえば、ここ数年は父に禁止され連絡の取れ無かった母や兄は元気だろうか……異世界に来る前に話したかった。


「私も聞いただけなんだけど勇者様が唯一できないのは死者の復活で他は何でも出来るって話よ」


「何でもは言い過ぎだろ~、アーシでも凄いのは認めるけどさ」


 そんな話をしていると招集となった。今回の研修生の死によって俺達に注意喚起と同時に他にも何か伝達事項が有ると伝えられた。




「まず諸君に大事な話がある」


 集められた俺達にジルク教官が言った。研修生も全員集まって話を聞いている中で今は見ない顔を思い出す。本当に彼らは死んだんだと実感した。


「今回の件で各国政府も重い腰を上げた。だから一部の希望者は向こうの世界への帰還の許可が出たんだ」


 その言葉で再びザワザワし出す俺達研修生一同だが、すぐにジルク教官が「静かに」と言って俺達を黙らせた。


「ただし、七愁時因しっしゅうじいん島までだそうだ……」


「えっ?」


 つまり帰れるのは元勇者こと区長の島までで、向こうの世界に戻れるが母国には帰れないという話だ。


「……君達が戻るのは制度上不可能だと通告が来た。それに戻るためには君達は一度向こうで王国の難民という扱いにならないといけないそうだ」


 そして難民申請にも時間はかかるし各国政府の対応は明らかに遅いそうだ。そこで暫定措置として七愁時因島での保護という形になったらしい。


「これでも元勇者様が、カイリ様が動いて下さった結果なんだ……」


「え?」


 各国政府は会談に応じているらしいが積極的では無いらしい。向こうからすれば魔法など多くの国益を得られる予定の研修制度で成果が無いのは許せないらしく向こうの官僚サイドの嫌がらせだという話だ。


「だから七愁時因島で保護し向こうで待ってもらうという形になった、すまない」


「それって、どういう意味だヒーロー?」


 つまり教官の話によると秋山区長は緊急避難先を用意してくれただけで、そこから先は各国政府との交渉次第という話だ。


「ここに残って王国民でいるか向こうで難民になるかの二択だ、アズ」


 だが死ぬような危険が無い安全な島で保護されるなら幾分はマシという考え方も可能だ。だって島には魔物は居ないのだから。


「は? んだよ……それ」


「乱暴な言い方だがヒイロの言う通りだ……」


 ジルク教官が島へ行く者は明後日までに願い出るようにと言って解散になった。さらに今回だけ特例で王城の異世界間通信施設で向こうの世界への通話許可が下りたから各自で連絡もして良いと言われた。




「俺は帰るなら成功してからだ、だから関係ねえ!!」


「僕も今は帰れません……目的のために!!」


 リックとソウガは自主訓練をすると言って出て言った。そしてアズも帰れる場所は無いと言って出て行ったが俺は迷っていた。もしかしたら二ヵ月経った今なら家族の誰かが帰還申請に答えてくれるかもと淡い希望を持ったからだ。


「なあ三崎、俺は行くけど……その、来るか?」


「後藤か、いや俺はいい……」


 02小隊の後藤が遠縁の親戚に連絡するから俺も一緒にと誘ってくれた。だが俺はその誘いを断って寮を出て自主練に励んだ。

 しかし翌日、俺はコッソリと寮を出ると王城に向かった。


「あの……俺以外の研修生は居ませんか?」


「ああ、今日は来てない……それで使い方は大丈夫か?」


 王城に着くとすぐに異世界間通信部屋の前の衛兵にパスを見せ入室する。この部屋は向こうの世界へ電話が通じるし専用機器も設置されていて連絡が可能な場所だ。


「ふぅ、二ヵ月振りか……」


 俺は久しぶりに向こうで使っていたスマホの電源をオンにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る