騙されて異世界行かされます――異世界研修制度の闇と成り上がりの関係性――

他津哉

序章

プロローグ


「はぁ、はぁ、はぁ……リック、あと魔法は何発撃てる!?」


 荒い呼吸を整え前を睨むと巨大な角が生えた魔物を見て俺は叫んだ。久しぶりに簡単な任務だと思って油断した。鉱山での任務も片付き今日は平和な見回りだと思っていたらこれだ。


「ははっ!! 余裕が無いなリーダー、そんなんだから女に捨てられんだ!?」


 嫌なことを陽気な口調で言ってくるのは同じ小隊の仲間で同期のリチャードだ。後で覚えておけと言いながら今はそれより生き残る方が大事だと切り替える。


「さっさと答えろ小隊長命令だ!!」


「オーケー分かった、じゃあ教えてやる……なんと、あと一発だ~!!」


 ニヤっと笑う歯は真っ白だ。歯は普通だがリックは黒人で肌の色が浅黒いからニカっと笑うと歯が普通の人より白く見えただけだった。そんな言い合いをしてる俺達に後ろから怒鳴り散らすイライラした女の声が響く。


「ためた割に普通とか……舐めてんのか外人よぉ!!」


 そのまま俺達の後ろから青く発光したナイフを投擲とうてきした金髪の女が俺達を睨んでいた。


「うっせえアズ、お前こそスキル用の神気エーテルは今のでラストだろ!!」


「はっ、アーシはスキル無くても魔法有るし」


 今のはスキルと呼ばれる人間だけが使える特殊技能だ。特殊な力を流し込んで使う技で魔法とは根本が違う。小隊の自称、紅一点のアズが巨大な魔物に投げつけたが効果は薄かった。


「どっちも中途半端な癖に言うじゃねえかビッ~チ!!」


「ああん!? アーシは処女おとめだって言ってんだろがっ!!」


「ふ、二人とも落ち着いて下さいぃ~」


 そんな俺たち三人の更に後方から声をかけるのは少し幼さの残る少年だ。年は14で俺とは三歳差だが問題はそこじゃない。最大の特徴は右のこめかみから出ている黒い角状の突起で魔族の証だ。


「ソウガ!! 補助と回復はどれくらいだ!?」


「はい、ヒイロさん!! あと二人分くらいは……でも僕の装備も置いて来たから戦闘の方は不安です……」


 こいつは姫野ソウガーナ、この世界でも珍しい魔族と人間のハーフだ。普段は特殊魔導兵装を持っているが警邏に持ち歩くには物騒で今回は城に置いて来ているから戦力としては心許ない。


「そんでヒーロー!! どうすんのさ、このままじゃアーシら全員この化物のエサなんだけど!?」


「珍しくアズと意見が合った、で? どうすんだ小隊長殿リーダー!!」


 そして小隊長と呼ばれた俺、三崎燈彩ひいろ。この『第27試験小隊』の隊長で数ヵ月前まで高校生だった。いや厳密には今も高校生だが肩書が変わっている。


「とにかく生き残る、俺のスキルはまだ使えるし魔術も使える。だから三人は後方から援護を頼む、一発当てたら逃げるから準備しろ!!」


 そして今の俺は異世界研修の実習生で兵士見習いをしている。自分の命を対価に異世界の人々のために戦う仕事をしていた。何でこんな事になったかは今から三ヶ月前の話で俺のどん底スタートの始まりはそこからだった。

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