第14話 さて球技大会当日だ

 さて、6月も末の球技大会の当日になった。


 16クラスが2チームずつで32チームができたから、結構な数だがトーナメントなのであっという間に進んでいくはず。


 俺たちバレーのチームは輪になって始まる前の気合い入れをしていた。


 声を上げてるのは桜田さんだ。


「さあ、せっかくだから皆で頑張って優勝を狙っていきましょう!」


 調理専門学校では若くて可愛い女性の比率はとっても少ない。


 そしてそんな女性に応援されれば皆いいところを見せようと張り切るはずなんだがな。


 俺も腕を振り上げて同調した。


「おおー」


 しかしなぜか周りはそんなに盛り上がってない。


「どうせ桜田さんが応援してるのは相田だけだしな」


「おいおい、なんでそうなる?!」


「だって、お前さん桜田さんの家の店でバイトしてんだろ?」


「お、おう、そうだけど、なんか5年働いたコックさんがやめたんで変わりに働くコックを探してたらしいけどな」


 俺がそういうと同じチームの男達は余計にテンションが下がっていったっぽい?!


「クー羨ましすぎる!就職先の内定がすでに取れたも同然じゃないかよっ!」


「もう勝ち組決定だよなぁ」


「おいおい、そんな世の中あまくないって、まだまだ見習いだぜ。

 ようやく賄いを作らせてもらえるようになったけど」


「いやいや、賄い任されるってある程度料理を認められたってことだろ」


「お、おう、そうかもなまだ2ヶ月位だけど」


「くそー神様は不公平だー」


「そんなことはねえよ、それにこの球技大会で活躍すれば数少ない女の子と縁ができるかもしれないぞ。

 あの人かっこいいって」


「うーむ、そうかもしれないな。

 じゃあちょっと頑張ってみるか」


 まあ、そうなるかどうかは実際わからんけどな。


 そんな感じで球技大会が始まった。


 それはいいのだがやはり皆運動から離れていたこともあって、サーブがネットにぶつかったりコートをオーバーするなどもよくあり、コートでボールがうまくつながらなかったりもするが、逆にそういった全体的な雰囲気のゆるさがいいかもしれん。


 そんな事を考えてるうちに俺のサーブが回ってきてしまった。


 正直ちゃんと一発でサーブを入れる自信はあんまりないがやるしかない。


「おーしサーブいくぞー」


 ボールを上へ上げて手で打ち出す。


「そーれ!」


 なんとなく乗りで皆の声が重なるのはいい感じだ。


 そしてうまく相手コートにサーブが入って助かった。


「レシーブ!」


 まあ簡単に拾われたけど。


「トース」


「アターック」


 そして相手のアタックボールは、俺と桜田さんの間のボールか。


「桜田さん俺に任せろ!」


「うん!」


 そう言って俺はボールに飛びついてレシーブをなんとかあげた。


「よっしゃ、アターック!」


 なんだかんだチームでの連携もうまく取れてお見合いでボールを落としたりや、逆にお互いにボールを拾おうとしてしてぶつかるようなこともないまま一回戦は勝利した。


 桜田さんが率先して声を上げる。


「一回戦突破ー!」


 なんだかんだでムードメーカーの役目を担ってくれるのはありがたい。


「よっしゃー」


 みんなでハイタッチして一回戦突破を喜ぶ。


「この調子で次もがんばりましょう!」


「おおー」


 なんだかんだでチームもまとまってきた気がするし、たまにはこういうのもいいものだな。


 無事に二回戦も突破してベスト8に入ったところで昼飯の時間になった。


 トーナメントなので負けたチームは見学したり、空きコートで負けた同士が遊んでいたりもするがここで一旦休憩。


「昼飯はどうしよう?」


 そういうと桜田さんが笑っていった。


「んっふふふ、じゃーん」


 彼女が持ってきていたバスケットにはおそらく手製のサンドイッチが沢山入っていた。


「パパとお兄ちゃんがつくってくれたの、みんなで食べましょ」


 うわー、相変わらず貧乏な俺にとってもすげー助かる。


「おおー、それは助かる!」


 周りの連中もホクホク顔だな。


「おお、そりゃすごい」


 水道で手を洗ってみんなで輪になってサンドイッチなどを食べる。


 流石に飲み物は普通にペットボトルのお茶とか紅茶とかだが。


「を、このルーベンサンドまじうまいな」


 ザワークラウトとパストラミビーフを挟んだサンドイッチはちょっと疲れた体にちょうどいい。


「このBLTサンドもうまいぜ」


 ベーコンとトマトとレタスのサンドもシャキシャキ美味しい。


「フォカッチャのブルスケッタもいいな」


 フォカッチャはナンみたいな丸っこいイタリアパン、その上に具材を載せて食べるのだがチーズを載せて食べるだけでもうまいぞ。


 サンドイッチは結構な量があったのだがあっという間に全部なくなってしまった。


「よし、午後もみんなで優勝目指して頑張ろう」


「おおー」


 流石に2回も勝ち抜いてくると皆それなりに上手なチームばかりになり、ボールは綺麗につながるようになってくる。


「桜田さん任せた!」


「え?!」


 ありゃ、桜田さんにいったかと思って、ボールを任せたらお見合いになっちまった。


 まあこういうときもあるよな。


「ごめん、俺の右側だったし、俺が取りに行ったほうが良かったかな」


「そ、そうね、左側だとどうしても拾いにくいし」


 左手は引き腕ではないので左側のボールを拾うのは右側より基本的に難しい。


「じゃあこんどからそうするよ」


 チーム全体でも同じように二人の間にボールが入ったら基本的にはボールの左側、すなわち右腕で拾えるようが優先して取りに行くようにした。


 その効果もあってかなんとか三回戦も勝ってベスト4に入ったぞ。


「よーし、後2試合頑張っていきましょう!」


 流石に準決勝になると観客も増え思い思いにチームを応援する人間も増える。


 そして当然だがバレーのレベルも高いものになってきてサーブボールやアタックボールの処理も難しい場所に撃ち込まれることが増えてくる。


 声を掛け合ってお見合いをなんとか減らし、ぎゃくに相手のコートの微妙な場所になるべく打ち返していき、なんとか準決勝も勝って決勝進出。


「よーし、せっかくだから優勝しちゃいましょう!」


「おおー」


 最初はいまいち温度に差があったチームだが今は一丸になってると思う。


 とてもいいことだ。


 そして決勝戦だが、流石に数多いチームの中で最後まで残っただけ有ってかなり強い。


「ぬわっ!」


 サーブボールの勢いもかなり有ってレシーブを返すのが結構大変。


 それでもなんとか食らいついて玉を地道に拾っていく。


 バレーボールは諦めないで玉を拾うことが肝心だと思うからな。


 思えばバイトで掃除ばかりやらされても諦めずに頑張ったのも無駄じゃ無かったと思う。


 そして均衡したゲームが続いたのだが最終的には俺たちが粘りがちで優勝を勝ち取った。


「優勝おめでとー」


「やったぜ!」


 なんだかんだでみんなで頑張って優勝したのは嬉しい。


 その後居酒屋でみんなで祝勝会をした。


 ホントは酒は駄目だがちょっとぐらいはとビールで乾杯して更にカラオケボックスで盛り上がったりしたが終電前には解散して俺は桜田さんを送っていくことになった。


「桜田さん大丈夫?」


「へーきへーき」


 そういう桜田さんのお顔はちょっぴり赤い。


 そして疲れてたのか電車の中でこてんと俺の方に寄りかかって眠ってしまったらしい。


 なるべく起こさないように固まってる俺だったが昼に食べたサンドイッチは美味しかった。


「サンドイッチ美味しかったな」


 こんど賄いで出してみてもいいかもな。

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