白銀

宵待草

白銀

 走っている。

 —――……ただ、走っていた。


 まぶたの裏に焼き付いているのは君のふわりとした笑顔で、ただそれしか頭の中にはなかった。

 幾度いくどか足が滑り、転びそうになる。その度に踏みとどまって体勢を整えた。

 く息は白く、手足の先はとうに感覚がなくなっている。


 一つのことを想い続け、ただただ走っているだけ。


 約束の場所には、君はもう来ていた。

 急に足を止めたせいか、また滑りかけたので慌てて踏みとどまる。


 「良かった、来てくれた」


 君は、一面銀世界の中で、いつものようにふわりと微笑んだ。


 「そりゃあ、来るよ」


 —――……君のためなら。


 「……お願いが、あるんだけど」


 足元の雪に目を落とし、押し殺したような声を出す君。

 この寒さからか、はたまた恥じらいからか、君の頬は赤く染まっている。


 「一緒に—――……」


 君は僕の耳元に口を寄せ、ゆっくりとささやいた。

 その、耳に慣れた心地よい声を聞き、僕の目が見開かれていく。


 一緒に、死んでくれない?


 勢いよく顔を上げて君を見つめる。

 悪戯いたずらっぽく笑う君の笑顔は、いつもと同じ—――—――……ように見えた。

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白銀 宵待草 @tukimisou_suzune

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