貴方が好きだから。
@soph_0623
第1話 可愛らしい貴方
「コトハー。来たよ。どこー?」
若い青年が私の名を呼ぶ。はぁ、と小さく溜息を吐くと、大きなうろが空いた木の裏から顔を覗かせる。
「…ここ。」
青年は私を見つけると分かりやすく笑顔になり、駆け寄ってくる。飛び付かれそうになったところを手で制止させ、残念そうにする青年の髪を少し背伸びをしながら撫でる。
「一昨日も来ただろう。数年ぶりの再会という訳でも無いのだし、毎回飛びつこうとするのはやめてくれ。私を一体何歳だと思っているんだ。まったく。」
青年は撫でられた事で少し満足げに目を細めながら、
「俺には可愛らしい12、3くらいの男の子にしか見えませんよ。」
と、少し揶揄うように言う。
「可愛らしい…?御前にはこの老いぼれた狐が可愛く見えるのか。人間の目は実に不思議だな。」
そう言いながら、ふと足元の水溜りへと目を落とす。まるで美しい湖のように透明で澄んだ水は私の姿を反射させていた。久しぶりに見た自らの姿は、人間の少年と変わらぬ容姿であり、青年の言うことも分からなくはない。
青年の髪から手を離すと、青年は幼い少年のようにきょとんとした表情を見せ、もう終わりなのかと目で訴えてくるも、
「あ、」と、一言。
何かを思い出したようにガサゴソと鞄を漁り始め、一足のユクケリを取り出した。
「んね、これ懐かしくない?偶々鹿の皮が手に入ってさぁ、暇だったし作ってみたんだよね。」
破れも解けも無い、職人が作ったような美しい出来栄えだった。
「これ、コトハへの贈り物。頑張って作ったんだからちゃんと使ってね。」
昔、この青年に贈った鹿の皮で作った靴。縫い方も形も何も変わらない。教えた覚えはないのだが、昔に渡したものを見て真似したのだろうか。
「綺麗に出来てる。凄いね、ありがとう。」
褒めると、幼い子供のような無邪気な顔で笑う。その表情は昔から何も変わらない。変わるのは背丈のみ。行動も性格も変わる気配のないその子に少しの嬉しさと心配の感情が入り交じる。
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