大文字伝子が行く81-2

クライングフリーマン

大文字伝子が行く81-2

伝子は高遠の報告と推理に驚いた。「理事官・・・。」

「うむ。頷ける所が多いな。誘拐犯人から副総監宛に連絡が入った。人質交換は明日午前9時。場所は神明球場だ。心して作戦を練ろう。」

翌日午前9時。神明球場。

バッターボックスに市橋総理が、椅子に座った姿勢で縛り付けられていた。

側に1組の男女が立っていた。アメリカンポリスらしき格好をしている。目にはマスクをしている。

一方、ピッチャーマウンドに檻が設置されている。エマージェンシーガールズが入場した。

女は言った。「檻の中に入れ、エマージェンシーガールズ。そして、鍵をかけろ。」

ぞろぞろとエマージェンシーガールズは檻に入り、その一人が鍵をかけた。

「今度は、そっちの番だ。総理の縄を解け!」と、その一人は言った。

「いいだろう。おい。」男は、女の命令通り、縄を解いた。

数分が経過した。男女は総理を解放しようとしない。

「エマージェンシーガールズ、素顔をさらせ。それが総理を解放する条件だ。テレビ中継で全国に晒すんだ。顔を、恥を。」居丈高に言った。

エマージェンシーガールズは、何やら話し合いをしていたようだが、やがて、一人ずつ顔のマスクを外して行った。

それを見ていた女は、慌てて檻に近寄り、「ち、違う!こいつらは・・・大文字は、大文字伝子は誰だ?」と叫んだ。

最後に顔のマスクを脱いだ、エマージェンシーガールズの一人、日向が言った。「私が大文字だ。」「違う。ちがーうう!!」

「じゃあ、こっちはどうだ?」女が声の方角を見ると、総理の側にいた男は倒れ、一人のエマージェンシーガールが足を乗せていた。そして、反対側に総理は立ち、総理が座っていた椅子にワンダーウーマンが悠然と脚を組んで座っていた。

「くそ!!みんな、出てこい!!」女が叫ぶと、三塁側から大勢の男達が走り出た。

エマージェンシーガールズは、簡単に檻を出て、一塁側から避難した。入れ替わりに、ワンダーウーマン軍団が現れ、暴漢達と闘い始めた。『幸い』、拳銃を持った物はいない。ダイナマイトを腹にくくった者もいない。

ワンダーウーマン姿の伝子が、顔のマスクを取り、『音の出るホイッスル』を吹き、合図を送った。そして、伝子は総理にウインクしてみせた。

すると、暴漢達は二手に分かれ、闘い始めた。一方の暴漢達は、もう一方の暴漢達とワンダーウーマン軍団によって、劣勢に追い込まれた。

「くそ!!」女は拳銃を取り出し、乱闘している方向に銃口を向けた。

伝子は『ティアラ』を、女の方向に投げ、ブーメランを跳ばした。

ブーメランはティアラを撥ねて、ティアラは女の頬を掠めた。そして、女の顔のマスクが外れ、顔が露わになった。「やっぱりな。」

伝子は、女の方向、ピッチャーマウンドに向かって走った。後方から飛んできたシューターが女の拳銃を弾き飛ばした。シューターとは、EITOが開発した、うろこ形の手裏剣で、先端に痺れ薬が塗られている。

背後に気配を感じた伝子はしゃがんだ。

「ウォーリャア!!」エマージェンシーガールの一人が走って来て、伝子の肩をステップにして飛び、女にニー・キックを見舞って着地した。

女は失神した。愛宕が走って来て「通称リン・磯子。色んな罪で逮捕する。」と言い、手錠をかけた。青山警部補が近寄ってきて、愛宕に頷き、女を連行した。

「みちる。よくやった。」伝子はエマージェンシーガールの一人に言った。

みちるは、エマージェンシーガールの顔のマスクを取り、「おねえさま。おねえさま!」と伝子に泣きながら抱きついた。

エマージェンシーガールの顔のマスクを取り、総子が言った。

「もう。みちるちゃんたら。好かんな。一番エエトコ取って。一個『貸し』な。」

総理が伝子に近寄り、言った。

「羨ましいわ。大文字さん。素晴らしい部下に素晴らしい『いもうと達』。貴女たちに恥じない政治をするわ。」

エマージェンシーガールズと交替した、ワンダーウーマン軍団が伝子の方に向かってきた。そして、『倒れていない方』の一団から窪内組長と遠山組長が言った。

「日本のヤクザもいいとこあるだろ?大文字。全員がそうかは分からないが、那珂国の連中は掃除したぜ。警察から金一封出すように言ってくれよ。」

「そいつは無理かな。ボランティアの清掃活動だからな。まあ、煎餅くらいはEITOから出るだろう。」久保田管理官が言った。

「煎餅?」「今年聞いた冗談で一番面白いぜ、管理官。」二人は笑いながら、帰って行った。

その後。二人の那珂国人の兄弟が、久保田管理官と伝子に近づいた。「とうとう、やったな、大文字。」「やっぱり大した野郎・・・お方だぜ。」「しかし、『死の商人』の幹までごっそり倒しても、違う幹はあるかも知れない。俺たちは知らないが。」「油断するなよ。」「油断?兄貴。相手は大文字だぜ。」「そうだったな。」

「ありがとう。ジョー。ジャック。また助けられたな。」「まあ、ボランティア活動が好きなだけだ。いい運動になったよ。感謝してるぜ、管理官。」

「じゃ、行くか。」久保田管理官は二人と共に引き上げて行った。一時的な出所。超法規的措置での『散歩』に過ぎないので、彼らは刑務所に戻る予定だ。

「いつか『恩赦』が叶うといいわね。」と総理は言った。

SP達が近づいて来た。「お別れね、大文字伝子さん、またSPやってね。」そう言い残して総理はSP達と去って行った。

「連行は終ったよ。」と声がするので伝子が振り向くと久保田警部補と、顔のマスクを外したあつこが立っていた。「今度は、みちるを『連行』しなくあちゃね。」と、あつこは言った。

「おねえさま。今度からはお風呂は、池上先生のところの大浴場を借りましょうよ。」と、なぎさは言った。

「それがいい。『災い転じて幸いとなす』。大敵が近くにいたことに気が付かなかったのは、お前の責任じゃない。我々も帰りましょうか、天童さん。」

副島と天童達も帰って行った。「あれ?副島さんや天童さん達って参加してたっけ?」と増田が言うと、「あそこよ。」と金森が実況ブースを指した。

「テレビ放送なんかさせるかいな。天童さん達がやっつけた奴らはもうみんな、連行されたみたいやけどな。間に合って良かったわ。伝子ねえちゃん、今日泊めてな。」総子が言うと、伝子は涙を流しながら言った。「いいとも!」

愛宕は、みちるを背負っていた。黙って歩くのを皆は止めなかった。

EITOメンバーのワンダーウーマン軍団も帰宅の途についた。

伝子はLinenで『終ったよ』と、一斉送信したら、マルチ画面になって、DDメンバーは口々に『おめでとう。』『お疲れ様。』『祝勝会は大文字邸で。』などと言った。

「別の幹の『死の商人』かあ。」「自信ないか?なくても、やるんだろ?元カノ。」

後ろから来た筒井が言った。「自分から元カノって言うな!」涙を拭いながら、伝子がグーパンチしようとすると、素早く避けて、「ああ。総子ちゃん。夏目房之助警視正だ。初対面じゃないよな。」

「え?夏目リサーチの社長さんと違うのん?」「それは、表向き。実は副総監の直属の部下。今後は、EITO大阪支部長との連絡役も担う。よろしくね。」と、夏目は総子にウインクした。「あかん。そんなん。浮気してまう。」

「大袈裟だな、総子は。筒井、送ってくれよ。」と、伝子が言うと、「仕方ないなあ。元カレから今旦那の家に送るか。」「まだ言ってる。」

筒井のジープに乗り込む二人を見送って、夏目と中津健二は顔を見合わせ、どちらからともなく、「一杯やる?昼だけど。」と言い、笑った。

球場には、誰もいなくなった。ピッチャーマウンドには、檻と、みちるが投げたシューターと、伝子が投げたティアラが残った。

―完―


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