第27話 労働相談
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夜のファミレス。
窓際の席に座る大学生二人。
「えっと......話したい事ってなに??」
猫実好和は正面に座る遠藤さやに訊ねた。
「あ、うん。その......」
彼女はモジモジしながら緑がかった髪を軽く掻き上げ、しっかり者らしさが滲むややつり上がった目を猫実に向ける。
「実はね......」
「はい」
「私、バイト辞めようかどうしようか迷ってて」
「えっ??遠藤さん、辞めちゃうの??」
「ま、まだ決めてはいないの!それで猫実君の意見も聞きたいな~なんて思ってまして...」
「そういうことか。......でも、また何で俺に?正直、俺と遠藤さん、バイト仲間ではあるけどシフト一緒になる事もほぼないし、同じ大学二年生同士だけどそんなに話した事もないよね」
「だ、だって、この問題を相談できる相手は猫実君以外に見当たらないんだもの!」
「え?それはどういう...」
「だ、だって!」
「だって?」
「猫好きだから猫カフェでバイト始めたら猫カフェじゃなくてネコ娘カフェだった!
なんて他に相談できる人いないでしょ!?」
「た、確かに!」
「猫実君もおおかた私と同じような感じだよね?」
「ま、まあ、遠からず......近からず......(俺の場合は強引なスカウトみたいなもんだったから...)」
「それで!猫実君はどう思う?」
「ど、どうと言われても......結局は遠藤さんがどうしたいか次第だし、うーん。
......ちなみに、働いてて、ここがイヤ!みたいな事って何かあるの?」
「イヤなこと?そうだなぁー。私、接客業好きだし飲食も好きだから、業務的には特にないかな?」
「...なるほど。じゃあ、そうだな、その......この人が苦手とか、そういうのはあったりする?」
訊きづらくもあったが、それでも猫実好和は必要性に駆られ率直に質問した。
遠藤さやはしれっと応じる。
「嫌いな人はいるかってこと?」
「ま、まあ、そういうこと」
「うーん、そうだなー?」
「......ええっと、例えば店長は?」
「店長?アミさんは面白くて大好きだよ。ノリもいいし。関西弁でズケズケしてるけど、ちゃんと分け隔てなくみんなを見ててくれて」
「じゃ、じゃあハヤオン先輩は?」
「ハヤオンさんは可愛くて大好き!いつも笑顔で明るくて接客も丁寧でホント尊敬してる!」
「じゃ、じゃあナル先輩は?」
「ナルさんも大好き!一見キツそうで実はすっごい優しくて気遣い屋さんで超イイ人!」
「じゃ、じゃあもずきゅん先輩は?」
「めちゃくちゃ可愛い!一緒にいるだけで癒される!いつも抱きしめたい気持ちを我慢してるぐらい!」
「じゃ、じゃあ千代先輩は?」
「カッコよくてクールビューティーで大好き!頼り甲斐あり過ぎてヤバイ!」
「じゃ、じゃあオーナーは?」
「私はもともと、フユメオーナーの自伝『それがしはネコである』の愛読者だったの!だから...」
目の前で、バイト先の人々について嬉しそ~に語る遠藤さやを見ながら、猫実好和は結論を下す。
「あの、遠藤さん」
「ん?なに?」
「正社員になったらどうですか?」
「えっ???」
労働相談、これにて終了。
猫実好和は思った。
一体この時間は何だったんだろう、と。
「ところで猫実君」
すんなりとお悩み解決した遠藤さやは話を切り替える。
「ん?」
「根本的な事なんだけど」
「うん」
「ネコ娘って、いったい何なの??」
「遠藤さん。それを言っちゃーお終いです」
世の中には、触れてはいけない事もある。
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