第21話 友人の願い

 数十分後。


 厨房の猫実好和のもとへ店長がやって来る。

「猫実くん!自分のお友達が来とるで?出るか?」


「あ、はい!じゃあ...」

 猫実はもずきゅんをチラッと見る。


「だ、だだ大丈夫だよ!いい行ってらっしゃい!」

 もずきゅんは似合わないグーサインで返す。


 猫実好和は厨房を抜けると、店長の示した窓際の席に向かった。


「おっ、ネコ。おつかれ~」

「来たか」


「おっす。柴井、秋多」

 猫実好和は来店した友人二人のテーブルに着くと、普段通りの柴井とは反対に、凄まじい剣幕の秋多にギョッとする。

「秋多?ど、どうしたんだ?」


「......お前は」

「?」


「なんて薄情な奴なんだ!!」

 秋多は怒りと悲しみと憤りの入り混じった声を悲痛に上げる。


「えええ??」

 面食らう猫実好和。


「お前は...お前は...なんであんな麗しき乙女達を俺達に紹介してくれないんだ!!」

 絶叫する秋多。


「なんの話だ!?」

 わけのわからない猫実。


「俺達って...俺は入れるな」

 引き気味の柴井。


「おいネコ!いや、猫実好和!」

 いきり立つ秋多。


「な、なんだよ!?わざわざフルネームで言い直すなよ!」


「貴様には絶対に拒否できない任務を与える!」

 なぜか鬼上官になる秋多。


「はあ??」


「......あの猫コス女子達との...合コンを設定してくれ......」

 急に小声になる秋多。


「えっ」


「頼む!男は俺とお前と柴井の三人で、女子三人は選抜してもらってさ!」


「やっぱり俺も入るのか」

 柴井は半ば諦めたように呟いた。


「そ、そんなこと言ったって」

 戸惑う猫実好和。


「いいから頼む!男の頼みだ!」

 手を合わせて必死に懇願する秋多。(こういう事について、彼にはプライドはない)


「うっ!......ま、まあ、なら......」



 ......午後八時。

 ネコまっしぐランド、閉店。


 猫実好和は早々に着替えると、通用口の扉があるバックルームで腕を組み、ネコ娘達を待ち構えていた。

 そう。友人に持ちかけられた合コンの話を切り出すためだ。


 正直、猫実の気は進まなかった。

 しかし、秋多に「一応聞くだけ聞いてみるよ」と言ってしまった手前、約束は果たさなければという義務感に駆られていたのだ。(彼はそんな下らない事でも変に義理堅いのである)


 猫実好和は考える。


ーーー誰に話を振るのがベストなんだろうか。


 まず、もずきゅん先輩はないよな......それだけで引かれる気がする。

 ナル先輩は......怒りそうだな。

 となると......


 ハヤオン先輩か。

 うん。やんわりと断ってくれそうだな!

 千代先輩についてはリアクションが未知だし。


 よし、ハヤオン先輩に声をかけるぞーーー


「あ、猫実くん。どーしたの?帰らないの?」

 猫実好和にとっては実に都合良く、いち早く着替え終わった私服のハヤオンがひとりバックルームに入って来た。


 他のネコ娘達はまだ来ていない。

 千載一遇のチャンス!

 猫実好和はすっくと立ち上がった。


「あ、あの、ハヤオン先輩」

「なあに?」


「その、ですね」

「?」


「実は、今日店に来た俺の友達なんですが」

「うん?」


「ハヤオン先輩達と、飲み会っていうか、そういうのしたいらしくて...」


「それは合同コンパ、俗に合コンと呼ばれるものでござるか?」

「わっ!千代先輩!?」


 いつの間にか猫実好和の背後にくノ一ネコ娘が立っていた。

 彼女はくノ一姿のままである。

 というか、猫実は未だに千代の私服姿を見たことがない。


 彼はハヤオンと千代の間に挟まれる。

 二人のネコ娘の間に立ち、アワアワする猫実好和。


 ふいにハヤオンが他意のないくりんとした目で訊ねる。

「...猫実くん、私達と合コンしたいの??」


「いやその!俺っていうか、友達がしたいらしくて!で、でも無理なら全然いいので!ハハ!」

 猫実好和は極めてディフェンシブに答えた。

 そこには、変に思われたくない、嫌われたくない、友人のためとはいえ断られて凹みたくない、などといった青年の複雑な想いが包含されていた。


「ならばその要望、拙者が承るでござる。猫実殿の大切な友人のため、この千代が人肌脱がせていただく」

 なぜかくノ一ネコ娘が了承した。


「えっ?」


「心配無用。拙者にお任せあれ」


「えええー??」

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