第8話 我が翼よ!

「奇遇だね?」

 ハヤオンは花のように微笑んだ。


「そ、そうですね。(......店外で見ると、際立つな...でもやっぱり周りからはクオリティの高いコスプレイヤーと思われてるのかな。しかし、改めて見ると、ハヤオン先輩は可愛いなぁ......)」


 猫実好和は、唐突な美少女ネコ娘との遭遇に一驚しながら頬を赤らめた。


「お、おい、あのコスプレ?の子。めちゃくちゃ可愛いぞ」

「えっ?アイドル?」

「あのケモミミと尻尾、リアルすぎる......」


 麗しきネコ娘にざわつく通行人。


 ハヤオンは微笑みながら猫実に訊ねる。

「大学終わり?」


「は、はい」

「そうなんだ」


 ハヤオンはふふふっと笑いながら後ろ手を組むと、猫実好和に接近して上目を向ける。

「猫実くん?」


「な、なんですか?」

「カフェでも寄って行かない?」


「お、俺とですか??」

「そうだよ?私とはイヤですか?」


「い、いえいえそんな!!ぜ、是非行きましょう!!」

「やったぁ」

「ははは...!」


「じゃあ猫実くん!私の知っているお店行かない??」

 ハヤオンが澄んだ瞳をくりっとさせて提案する。


「あ、いいですよ!どこにあるんですか?」

 猫実が訊ねると、ハヤオンはサッと一歩下がり、片手を腰に当て、片手を横にピッと伸ばした。


「......えっと、ハヤオン先輩?」

 猫実好和はハヤオンの脈絡のないポージングに戸惑う。


 ハヤオンはニイっと自信満々の表情を見せて、

「顕現せよ!我が翼よ!」

 叫んだ。

 その瞬間、ボゥンッ!という音とともに謎の煙が飛散し、彼女の伸ばした手に長いホウキが現れた!


「い、いきなりハヤオン先輩の手に箒が!?なんで!?」

 猫実好和はたまげる。


 ハヤオンはおもむろにホウキにまたがると、猫実に微笑みかける。

「さあ!猫実くんも!」


「お、俺も??て何がですか??」

 猫実は彼女が何を言っているのか理解できず訊き返した。


「私の後ろに跨るの!さあ、早く!」

「え?俺もその箒に跨るんですか??」

「そうよ!さあ!」


 猫実好和は当惑し、周りをチラチラ見まわした。

 道ゆく通行人達は不思議そうにハヤオンを眺めている。


「あ、あの、ハヤオン先輩...」


「何してるの猫実くん!さあ!早く」

 全く揺るがないハヤオン。


 彼は彼女の微動だにしない態度に気圧され、周りの目を気にしながらもハヤオンの後ろに跨った。

「こ、これでいいですか?」


「うん!じゃあしっかりつかまっててね!」

「は、はい??」

「それじゃあ、いっくよ~!?」


 フワァン

 

「えっ?」


 なんと、ハヤオンのかけ声と共に、二人を乗せたホウキがフワリと浮上し、数秒のうちに電柱の高さを超える。


「えっ、えっ、えっ、ななな何これ??」

「しゅっぱ~つ、しんこー!!!」


 バビューーーーン!!!


「えええええーーーー!!??」


 ホウキに乗った二人は、ジェットコースターのような勢いでビューン!と空を翔けていった。

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