第6話 K・O
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ランチタイム終わり。
午後休憩。
猫実はハァーっと溜息をつくと、休憩室の椅子にどかっと座った。
「まだバイト前半だけなのに......すげぇ疲れた」
結局、あれからすぐにもずきゅんはバックに退がり、目を覚まさないまま戻らなかった。
厨房は、もずきゅんの代わりに千代が入り、彼女がキッチンとフロアを縦横無尽に駆け回ってなんとか事なきを得た。
が、そのバタバタはバイト初日の猫実好和の体力を著しく奪った。
テーブルに肘をつき頭をもたげてくたびれる猫実好和。
彼は十分以上はそうしていたであろか。
そこに...
「猫実くん!おつかれさま!」
正統派美少女ネコ娘・ハヤオンがやって来る。
「大丈夫?なんだかいきなり大変だったね?」
ハヤオンが横から猫実の顔を覗き込むように訊ねる。
猫実は、自分の顔のすぐ傍にあるプリティーフェイスにびっくりして、慌てて顔を起こす。
「だ、大丈夫です!あ、ありがとうございます!ハヤオン先輩」
「猫実くんはお昼はあるの?」
「いえ、コンビニかなんかで買ってこようかと」
「なら良かった!はい、これ!」
ハヤオンは目の前のテーブルに小さなバスケットを差し出した。
その中には、サンドイッチが顔を並べていた。
「時間がなかったからこれだけだけど、良かったら食べてください!」
ハヤオンはそう言って可憐にニッコリした。
「ま、まかないってやつですかね??ありがとうございます!いただきます!」
猫実好和は心から感謝した。
「ちなみに...」
「?」
「四個のサンドイッチ。ひとつは私、もうひとつはナル、もうひとつは千代が作りました」
ハヤオンはニコッと笑った。
「そ、そうなんですか!...あれ?じゃああとひとつは...」
猫実が言いかけた時、休憩室の扉がキイっと開く。
「あ、あああの......」
申し訳なさそうにオロオロしながら、もずきゅんが入って来た。
「もずきゅん先輩!」
猫実が勢いよく声を上げる。
もずきゅんはビクンとしながらも、目をうるうるさせて口を開く。
「さ、ささ、さきほどは、ほ、本当に、申し訳ごさいませんでしたぁ!!」
もすぎゅんは謝罪会見の芸能人のように深々と頭を下げた。
それを見て、猫実をすっくと立ち上がり、ツカツカともずきゅんに距離を詰める。
もずきゅんは頭を垂れたまま獣耳をぶら下げて、小さくぷるぷる震えている。
「もずきゅん先輩」
猫実好和が呼びかける。
「も、申し訳ごさいません...!」
ひたすら謝罪するもずきゅん。
「もずきゅん先輩............大丈夫ですか!?ケガはありませんか!?」
「へ???」
猫実の予想外の言葉にパッと顔を上げるもずきゅん。
「もちろん千代先輩が絶妙の手加減をしているでしょうが、心配しました!」
「......うっ」
「...?もずきゅん先輩?」
「うえぇぇぇぇぇん!!!」
たちまちにもずきゅんが
「え?え?もずきゅん先輩?どどどうしたんですか?」
「......もう、ぎらわれだがどおもっだよぉ~うえぇぇぇん!!」
びえんびえん泣くもずきゅん。
ハヤオンが近寄り、慰めるように彼女の頭を撫でる。
やがて彼女の涙もおさまってきた頃である。
「コラァ!何しとんねん自分らぁ!サボっとったらアカンでぇ!」
アミ店長が叫びながらドドドッと休憩室に駆け込んで来た!
勢い余った店長は、思わず後ろからもずきゅんをドンと突き飛ばしてしまう。
「あっ」
後ろから突き飛ばされたもずきゅんは、目の前にいた猫実にもたれかかってしまう。
「あっ」
もずきゅんを受け止めた猫実の手に、妙に柔らかな感触が走った。
「あっ...」
飛んで来たボールをキャッチするように、もずきゅんのお胸を両手でナイスキャッチしていた!(一瞬軽く握りもした...)
「...い、意外と、ある...じゃなくて!もずきゅん先輩!こ、これは...」
「......い、いやあぁぁぁぁー!!!」
ズガンッ!!!
もずきゅんの下から突き上げる頭突きが猫実好和の顎にクリーンヒット!
猫実の足は床を離れ、体はふわぁっと浮かんでから地に落ちる。
ドシャアァァァ......
鮮やかな
K・O
「...ね、猫実くーん!!!」
絶叫するハヤオン。
「えっと......ウチはなんもしとらんでぇ!」
逃亡犯のようにダッと走り去るアミ店長。
......以上、
狂乱の休憩室からお送りいたしました。
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