第3話 ノーと言えない日本人

「まったく昨日は何だったんだ......」

 早朝、アパート脇の所定の箇所へゴミ出しをしながら、猫実好和は溜息混じりに呟いた。

 

「今日は二日目やで。ウチは店長なんや!頑張らなあかんでホンマ!」

 早朝、アパート脇の所定の箇所へゴミ出しをしながら、ネコ娘は気合いを入れ直した。


「......あっ!」

 二人の声がユニゾンする。


「あ、あなたは?猫カフェの店長さん?」

「じ、自分、昨日のお客さん?」


「店長さんもここのアパートに住んでいるんですか?」

「あんさんもここに住んどるんか?」


「な、何という偶然なんだ」

「ほ、ホンマやな......あ、スマホ鳴っとる!ちょいと失礼!」

「あ、はいどうぞ」


 アミ店長は電話に出た。

「......ほ、ホンマか!せやけど、人数ギリやったから代わりおらんな......ま、まあええわ!あとはウチでなんとかするわ!」


 猫実好和は何となくどうすればいいのかわからず、居心地悪そうにその場にじっとしていた。

 眼前のアミを見ながら、彼は思う。


ーーーあの耳と尻尾...本物なんだよな...(電話の位置は俺らと変わらないんだな)。

 まさか本物の猫娘がこんな身近に存在してたなんて......今までなんで気がつかなかったんだろう?

 ただのコスプレとしか思ってなかったとか?だから周りもなんとも思わないのか?

 えっ、なんか日本て改めてスゴイ国だなーーー


 やがてアミは電話を切ると、彼の前でどうしようどうしようとアタフタし始めた。


 猫実は何だかバツが悪くなり、よくわからない義務感に駆られ声をかける。

「あ、あの、どうかしたんですか?」


 アミは振り向くと、唐突に何かを閃いたように目を大きくして応える。

「あんさん!猫好きやろ!?」


「え?そ、そうですけど?」

「ほな、今日、ウチの店にバイト入ってくれへんか!?」


「お、俺がですか?」

「せや!猫好きなら問題ナッシングや!」


「いや、猫好きって言っても、俺が好きなのは本物の猫で、猫娘ではないんですが...」


「せやからホンモノのネコ娘が好きなんやろ!?ヤラシイやっちゃな!おっと、失礼失礼。にゃはは。てことで...ウチと一緒に店行くでぇ!」


「あ、あの、承諾してないですけど...」


「優柔不断はアカンで!ええやろ!?ええやろ!?ええやんなぁ!?」

 アミ店長は、一昔前の歌舞伎町のキャッチのようにグイグイ押しまくる。


「あ、えっと、はい...」

 彼はノーと言えない日本人だった。


「ほな決まりや!!よろしくな!!」

「は、はい......アハハ」


 ...こうして、猫実好和の間違いは本格化するに至った訳である。

 猫好き大学生・猫実好和の『猫カフェ:ネコまっしぐランド』アルバイト生活が、いよいよ幕を開ける...!

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