第2話 ネコ娘

「先生?」


 すると、シックな色合いの落語家のような和装をした男性が姿を見せる。

 齢六十は超えているだろうか?

 短髪の白髪頭に口髭を生やした姿は、一昔前のお札を思わせる聡明な貫禄を帯びていた。


「アミ。お客様が困っておろう。おっと、これは失礼。ワシは当店オーナーのフユメソーセキと申します」


「ど、どうも」


「本日はご来店いただき誠にありがとうございます。ほら、アミ。ハヤオン。ナル。誰でもいいから、さっさと注文を取って差し上げなさい」


「しょ、承知しました!」

 三人娘は声を揃えてかしこまった。


「それではお客様。ごゆっくり」

「あ、は、はい」


 白髪のオーナーは店の奥へと引っ込んでいった。


「い、いったい次から次へとなんなんだ?」

 猫実好和ねこざねよしかずは、矢継ぎ早に展開される目の前の事象にただただ当惑する。

 

「ほな、注文なんにしますか?」

「どちらになさいますか?」

「な、何にしますか?......べ、別に貴方のためじゃないんだからね!仕事だからやるんだからね!」


「じゃあどれに......って三人でオーダー取るんですか!?オペレーションおかしくないですか!?」

 焦る猫実好和。


「では私が取りますね!」

 ハヤオンが正統派美少女らしくニッコリ爽やかに名乗り出る。


「あ、じゃあ...」

 猫実はハヤオンの王道的キュートさに思わずニヤけて、顔をポッと火照らせた。


「ではご注文と配送日の指定をお願いします!」

「あ、はい......て配送日??」


「はい!わたくしハヤオンが、箒のバイク便でお届けします!あ、プライム会員なら配送料無料ですよ!」


「すぐここで出してください!!」

 たまげる猫実好和。


 ここで早くも、ハヤオンに業を煮やしたナルが鋭く声を上げる。

「ちょっとハヤオン!何をやっているの!?」


「ナル!?」


「今すぐワタシに代わりなさい!ワタシがお手本を見せてあげるわ!」

 ナルはハヤオンを退しりぞけると、片手を腰に当て、誇り高そうに猫実好和の前に立った。


「さあ、注文なさい。ワタシが貴方のために希望を聞いてあげるわ。

 で、でも勘違いしないでよね!貴方のためと言っても、これはあくまで仕事なんだからね!そういう意味じゃないんだからね!

 でも、貴方が注文したいっていうなら、貴方のために、するんだから......バカ!!」

 ナルは、キッと睨んだと思ったらすぐ頬を赤らめたり、キリッとなったり恥ずかしがったり、とにかくせわしなかった。


「あ、あの、えっと、はい......」

 猫実はナルの一人ツンデレ相撲に圧倒されるばかり。


「もう自分らええ加減にせえや!」

 やにわにアミ店長が店長らしく声を上げる。

「他にもお客さんおるのにさっきから自分らここで何しとんねん!」


 いやアンタが呼び寄せたんだろ?とツッコミたかったが、猫実好和は我慢した。


「ほな、注文はウチが取るから、ハヤオンとナルは他行っといてえや!」

 アミ店長は偉そうに指示した。


「かしこまりました!」

 二人娘は従順にそれぞれに散っていった。


「いやいや、お騒がせいたしまして。ほな、改めて注文取りましょか」

「あ、はい」


「当店のオススメはこちらですわ!マタタビコーヒー、マタタビココア、マタタビハニーラテ、マタタビフラペチーノ、マタタビール......」


「ま、マタタビ!?し、しかも最後のはお酒ですよね?」


「他にも、季節の彩り猫缶、揚げカリカリ、ネコマンマ......」


「それ全部猫の餌ですよね!?てゆーか最後のはただのぶっかけご飯じゃ...」


「他にもあるで!?あとは...」


「いや、オススメは結構なんで!フツーの頼みます......。あ、あの、それと......」


「なんですか?」


「その......店内に全然猫が見当たらないんですけど......ここ、猫カフェですよね?」

 ついに猫実好和は、入店当初から抱えていた疑問を不安げにぶつけた。


「え?おりますやん?」

「え?いるって、どこに?」


「ここに」

「ここ?」


「せやから、ウチが猫ですよ?」

「えっと、それは猫のコスプレですよね?そうじゃなくて...」


「コスプレちゃいますよ?ホンモノですわこれ」

「ほ、本物?」


「せやから、ホンモノのネコ娘ですわ」

「いや、ちょっと、言ってる意味が...」


「さっきのハヤオンもナルもみんな本物のネコ娘やで?ちなみにオーナーのソーセキ先生も正体は猫やで?『それがしはネコである』て自伝小説は有名やろ?」


「えっ、えええーーー!??」


 そう。

 ここ『ネコまっしぐランド』は、なんとホンモノのネコ娘が働く、究極の猫カフェだった...!!


 ん?本物の猫娘って何?という疑問をお持ちのアナタ、それはですねぇ、天地開闢てんちかいびゃく以来の謎なのです。

 解明まではあと軽く8万年はかかりますので、ここでは一旦横に置いておきましょう。


 ということで...

 ハチャメチャ猫カフェ

『ネコまっしぐランド』

 どうぞ皆様、是非ともご来店くださいませ!!

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