墜落する飛行機の中で……【実話】

神楽堂

第1話 東京コントロール

東京航空交通管制部は、緊急救難信号スコーク7700を受信した。

民間航空機、東京発大阪行き、123便からだ。


「ハイジャックですかね?」

「いや、それならスコーク7500だ。123便は77を送信している。確認しよう」


123便からの無線の内容は次の通りだった。

『緊急事態発生。当機は羽田空港に戻ることを要求する。高度は22000フィート(6700m)まで降下し維持する』


了解ラジャー


『レーダー誘導を要求する』


「右旋回するか? 左旋回するか?」


『右旋回』


「了解。進路を真東090に保て』


東京航空交通管制部コントロールは、このことを羽田空港に緊急連絡する。

「123便、羽田空港への緊急着陸を要請」


羽田空港から「了解」との連絡が入る。

羽田空港は緊急着陸の準備に入った。

消防車、救急車が続々と集合する。

東京航空交通管制部コントロールは、123便に連絡を取る。


「123便、緊急事態宣言ということで、よろしいか?」


その通りですアファーマティブ


管制部では、123便に何が起きているのか、まったく分からなかった。

「123便、どのような緊急事態か報告せよ」


……しかし、123便からの応答はない。

これでは手の打ちようがない。

まずは、緊急着陸ディセンドの手配を進めなくては。

123便はレーダー誘導を要求してきていた。


「伊豆大島のレーダーで誘導する。進路を真東090に維持せよ」


すると、123便から返信が来た。

『現在、操縦不能アンコントロール


「操縦不能、了解」


なんと、123便は操縦不能になっているとのこと。

ただのエンジントラブルとは事情が違うようだ。


東京航空交通管制部コントロールでは、無線通話をスピーカーで流し、職員全員が聞こえるようにした。

管制室は騒然となる。


「123便、操縦不能。緊急着陸のため羽田に向かっている」


緊急着陸なので、他機と区別がつくように識別コードを与える。

「123便。識別コード、2027を発信せよ。降下可能か?」


『了解。現在降下中』


「名古屋空港が近いが、そちらに行くか?」


『いいえ。羽田空港への着陸を希望します』


「了解。以後、日本語でよろしいですから」


『はいはい』


機長も我々も日本人だ。

緊急事態ということで、英語ではなく日本語での通信に切り替えた。

この方が話しやすいはずだ。



緊急着陸では無線での連絡が重要だ。

しかし、東京コントロールへの無線は、同じ周波数を他の飛行機も使用している。

そこで、周波数を変更することを123便に提案した。


「123便、周波数を134.0に切り替えられますか?」


返信がない。

繰り返し、応答を求めるも、やはり返事がなかった。

123便では、今、何が起きているのか。

周波数の変更も難しい状況なのだろうか。

やむを得ない。

他の飛行機の周波数の方を変えてもらおう。

東京コントロールは、付近を飛行しているすべての飛行機に向けて発信する。


「123便以外のすべての航空機は、東京コントロールへの連絡は周波数134.0で行うこと。なお、別途指示があるまで無線通信は極力、控えること」

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