第24話「木っ端」

「なんだコイツら? ぶっ飛ばしていいよな?」


 花が指をポキポキと鳴らしながら俺達を囲っているオッサン集団を一瞥する。

 今すぐにでもオッサン集団に殴り掛かろうとする花の首根っこを掴み止める。


「何をする零!」

「待て待て、相変わらず喧嘩っぱやいんだから。まずはコイツらの目的が先だろうに」

「む……っ」

「で? あんたらは俺達に何の用だ? まさか俺らのファンって訳じゃないよな?」

「………………」


 オッサン集団は誰1人として口を開こうとしない。

 コイツらの狙いは分からないけど、こちらに敵意を向けているのは間違いない。

 まぁ、やるしかないかなぁ。

 花を手綱を放そうとしたその時だった。


「いたいた、智ちゃん下民どもがいたよー」

「まぁ、それはいるわな」


 オッサン達の背後から二つの影が近づいてくる。

 坊主頭と坊っちゃん刈り。

 あぁ……馬鹿が二人を現れた。


「おいおい、これはお前らの差し金か?」

「なぁ、もういいだろ零!」


 この戦闘狂が……。


「待てよ花。まぁ、大体予想はつくけど、一応な。おい、用件はなんだ? 俺達、これから飯にいくんだわ。分かる? お前らの相手をしてる暇はないのよ」


 俺の口はステーキを出迎える準備が出来ている。   

 こんなところでチンタラしたくないのだ。


「貴様ら下民では一生抗うことの出来ない理と言うものがある」


 おいおい、ハゲがなんか語りだしたぞ?


「君達は決して開けてはいけないパンドラの箱を開けてはしまったのさ」


 補足しようとしている坊っちゃん刈りの言っている事もよく分からない。


「花、コイツらの言ってる事、わかる?」

「お前が分からないのに私が分かるわけないだろ」

「だよな」


 まぁ、上流階級の自分等が星無しの俺にやられて親に泣きついたって所か……。めんどくさ!


「そうだな。田母神とそこの野蛮オンナを素直にこちらに渡すなら病院送りくらいで済ませてやろうじゃないか」


 あのハゲは萌ちゃん狙いとしてなんで花?


「野蛮女? なんで花まで?」

「おい、私は野蛮じゃないぞ!」

 

 いや、野蛮だろとは口には出さない。

 野蛮な花に殴られるからだ。

 

「恭ちゃんがそのオンナをメチャクチャにしたいと言っているからな」


 恭ちゃん?

 坊っちゃん刈りが花の全身をなめる様に視る。

 コイツが恭ちゃんか。


「お前、なに人の彼女に手出そうとしてんの? いっぺん死んでみるか!?」


 今度は優真がキレだす。

 そんな優真を見て花はクネクネしてるし。

 あかん! 情報量が多すぎてなんかごちゃごちゃしてる!

 このままだと埒があかない。

 

「坊っちゃん、そろそろ終わりにしましょうぜ」


 オールバックのオッサンが一歩前に出る。


「そ、そうだね。いいかい? 野蛮オンナ以外は徹底的に潰してしまいなさい」

「というわけだ。よりによってこの二人に手を出すとは運が悪かったなガキども」


 そんなオールバックオッサンは、俺達に対して一ミリの油断もみせていない。どんなに格相手だろうとキッチリ仕事をこなすタイプだろう。


「武藤」

「へい、アニキ」

「流石に学生相手にリンチと言うわけにはいかねぇ。俺達うるし会の名折れだからな。オレの言葉の意味分かってるよな?」

「へい、アニキ」

「いけ」


 オールバックのオッサンがそう指示すると手前にいた俺よりふた回りは大きい巨漢が突っ込んでくる。

 猪突猛進といった様子で突っ込んでくる武藤。

 別に何の驚異も無いため、俺も花もその場から一歩もうごいていない。

 そして、武藤は俺の前に立ち止まり大きく拳を振りかぶり、そして、振り下ろす。


「おせぇ」


 欠伸が出るほどに遅い武藤の攻撃をヒョイっと避ける。


「んが? よくも避けてくれたなああ!」

「いや、だってお前攻撃おそいし」

「うがああ! お前ムカつく! ぶっ殺すうう!」

 

 武藤は何度も何度も拳を繰り出すが、俺にかする事もなく空を切る。


「なんで!? なんで当たらないの!?」


 必死な形相の武藤を見てるのは少し面白かったけど、もうコイツはいいかな。


「ぐゅえ! ぎゅぼ!」


 俺は左右の脇腹に一発ずつ拳を放つ。

 武藤は、まるで糸の切れた人形の様にその場から崩れ落ちる。


「お前の攻撃が遅いからだって」


 武藤がなす術なく倒された事によってオッサン達に緊張が走る。


「やるなガキ……」

「まぁ、一応腕っぷしに多少自信があるもんでね」


 オールバックに向けて力こぶを見せつける。 


「松野! 素人相手に何をもたもたしているのだ! お前達は栄えある裏組織うるし会の一員なのだぞ!」

「すいやせん、坊ちゃん」


 裏組織? うるし会?


「花、うるし会なんて聞いた事あるか?」

「ない」

「だよな? 優真は?」

「木っ端だよ。少し名の通ってるな」

「あぁ~なるほどね。それは聞いた事もないわ」

 

 裏組織は数多く存在しているが、そのほとんどが小規模組織だ。

 そんな小規模組織の事を俺達は木っ端と呼んでいた。

 てか、木っ端の情報を持ってるなんて流石優真だ。


「こ、木っ端だと!? よっぽど死にたいらしいなガキどもッ! 病院送りで勘弁してやろうと思ったが、一生寝たきり生活を送らせてやる!」


 オールバックのオッサン、松野は俺達に木っ端と言われたことが疳に触ったのかかなりお怒りだ。怒りのあまり、なぜ俺達が木っ端という単語知っているのかはスルーだ。


「おっ、いいの見っけ。ほれ、花」


 俺は、足元に落ちている箒を手に取り花に投げ渡す。


「箒?」

「あぁ、こんな奴らにお前の双子を使うなんてもったいないだろ?」


 箒をぶんぶんと振りまし「ちょうどいいハンデだな」と獰猛な笑みを浮かべる花を見てオッサン達の末路が目に浮かんだ。


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