第18話「因縁みたいなもの」
「ふぁ~~~~」
結局昨日は日付が変わる時間まで話し込んでしまった。
まぁ、数日寝なくても問題ないように訓練はされているので大した問題はないが、寝ないことによって疲労が蓄積されるのは変わらないため寝られる時は極力寝るようにしている。
それにしても、優真も花も実年齢は俺と同じアラサーである。
そんなアダルトな二人が同棲しているという事は、夜のアレやコレがあってもなんら不思議ではない。
「結構いいマンションなんだから防音はしっかりしてそうだけど……」
流石に友人の夜のアレコレが聞こえて来るのは精神的にきつそうなので、聞こえないことを祈って昨晩は眠りについた。
「はぁ、大丈夫だよな?」
「何が大丈夫なんだ?」
「うぉっ!?」
優真が現れた。
「そんなに驚くことないだろ」
「お前なぁ、気配消すのが上手過ぎんだよ。俺じゃなかったら、心臓飛び出て死んでるわ!」
我が友人には潜入捜査のスペシャリストとしての自覚を持ってほしいものだ。
「ははは、なんだそりゃ」
「あれ? 花は一緒じゃないのか?」
見たところ優真一人のようだったので、もう一人の友人について聞いてみる。
「花は部活の朝練があって、1時間前に出てるよ」
「部活? アイツ何の部活に入ってるんだ?」
「……は、花嫁部」
「……なんだよ、そのざっくりとした部活は」
まったく想像がつかなくて反応に困る……。
「ほら、あれだ、花嫁修業をする部活らしい。今時古風な考えかもしれないが、この学園には良家のお嬢様方が多数在籍しているわけで学園を卒業してすぐに嫁ぐやつも少なくないからな。今日は編み物を習うって張り切って出て行ったよ」
なるほど、そのための修行の場という事か。
それにしてもあの
「お前らも卒業したら結婚とかするのか?」
「まぁ、すぐにとはいかないけど、追い追いしようとは考えてるよ」
「そうか」
「それで、さっきの何が大丈夫なんだ?」
「いや、あのマンション防音はしっかりしてるのかなぁって」
「防音? まぁ、ちゃんとしてるとは思うぜ? 今まで何か物音がしたりもしなかったし。でも、急にどうしたんだ? 防音なんか気にして」
「いや、ほら、流石にダチの夜のアレコレが聴こえてきたら精神的にきついからさ」
俺達は大人だ。
別にひた隠しにする必要はない。
「ば、お前、何てこと考えてんだ!」
「ガキじゃねーんだから考えるだろ普通。それともお前はあれか? 結婚するまで純潔をとか言うやつなのか?」
「い、いや、そんな事はないけど……」
「だろ? それにお前が逆の立場になってみろ? きつくないか?」
「確かにきつい……たぶん大丈夫だとは思うけど、そういう事になったら念のために音遮断の魔法を使う事にするよ」
「あぁ、頼む」
これで俺の心配事の一つは消えた。
「今日は部活に行くのか?」
「あぁ、一応そのつもりだけど」
「オーケー、萌ちゃんの事を頼むな。花の数少ない友達だからよ」
「もちろん、任せろよ。それにしても黒澤重工とはな」
「何年前だっけ? お前があの馬鹿を半殺しにしたのは」
「10年前だな」
黒澤重工はかつて【
10年前、ちょうど俺が今ぐらいの歳の時、黒澤重工の創設者の孫であり現黒澤重工副社長の黒澤甲一が中華系マフィア相手に馬鹿をやらかして命を狙われ、ボディーガードとして護衛任務についた事があった。
甲一は、一言でいえばクズだった。
誰に対しても高圧的な態度を取り、自分は何をやっても許されると本気で思っているアホだ。
任務中は、やれ若造がどうだこうだとか罵声を浴びせられた。
まぁ、俺もプロだし?相手方と折り合いがつくまでの短い付き合いだから気にしない事にしていた。
だが、あいつは、任務を終え会釈をしてその場を去ろうとした俺に言ったんだ。
「雇い主様に対してなんだその挨拶は! お前らみたいなゴミ共は地面に頭を擦りつけるんだよ!」
あいつは、俺達、つまり俺の家族をゴミ呼ばわりしたんだ。
怒り支配された俺は、目の前が真っ白になり甲一に殴り掛かった。
優真が止めてくれなかったら俺は甲一を殴り殺していただろう。
「俺も若かったな~あれくらいでキレるなんて」
「今だったらキレないのか?」
「そんなわけねーだろ? 家族をゴミ扱いされたんだぜ?」
「若さ関係ないじゃん!」
「確かに! まぁ、あの後オヤジに殺されるかと思ったぜ……」
「逆にお前の話を聞いて、激怒したオヤジが黒澤重工を物理的に消し去ろうとしてたからな」
オヤジは盟約で特別な理由なく表世界に干渉する事ができない。
黒澤重工の件は特別の理由の枠組みに入らないため、もし、オヤジが事を起こしていたらオヤジは禁忌を犯した罪でこの世界から追放される。
「みんなで必死にオヤジを宥めたな……」
「そんでもって、黒澤重工と縁を切った。それまでは管理者であるオヤジが後ろ盾になっていたからあれ程の大企業に成長したのに」
裏組織は数多く存在しているが、そのほとんどが名も知られていな小規模組織だ。
そんな中、オヤジを含めた4人の管理者がトップを張る裏組織は絶大な力を持っているため、うちが顧問になっている間の黒澤重工はかなりの権威を持っていた。
だが、うちに見放された事が公になった事で黒澤重工の権威は地に落ちた。
他の大規模な組織はそれぞれ既にライバル会社と契約していて取り合ってもらえない。
加えて有象無象の雑魚組織ですら、【ベエマス】に縁を切られた黒澤重工と契約を結ぼうとは思わない。
この世界で裏組織の後ろ盾がなければ、衰退の道をたどるしかない
その事を良く知っている甲一の父、現黒澤重工の社長がオヤジに許しを請うためにうちを訪ねてきた。
「あの時の黒澤重工の社長の面、今でも覚えてるよ」
「許してくれって何度も頭を床に擦りつけながら泣き叫んでいたな」
「でも、オヤジは許さなかった……まさか、こんな所であいつの息子に出会うとはな……」」
今でもうちが黒澤重工の後ろ盾になっていたら、これほどまで経営が悪化することはなかっただろう。
「やつの事だからこのまま終わりとはいかなさそうだけどな」
甲一の性格を継承しているのなら、俺にやられたままでは終わらないだろう。
「まぁ、何か仕掛けてきても返り討ちにしてやるさ。知ってるか? 俺、結構つえーんだぜ?」
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